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2002年06月28日

真夜中のあたしたち

「午前36時。俺は幸子とカフェに入る。」
「お願いだからさ、そのしゃべり方やめてくれない?」

わたしは幸子。ケンジと付き合い出してもう一年。ケンジはいつでも深夜にしたがる。
今だって本当は昼の12時だっていうのにケンジに言わせると午前36時。

「馬鹿。幸子。人は深夜にこそ本性をのぞかせるものだ。月に吠えろ。幸子。ガオー!!」
「恥ずかしいからやめてよ。」
「やめる?アホらしい。俺は狼だ。何度だって吠えてやる。ガオー!!ガオー!!パオーン!!」
「・・・・・。」
「今の面白い所はな。狼と言いつつ、最後にパオーンと象の泣き声で言った所だ!!わかるか幸子!わかれ!!幸子!!」
「別れましょう。」
「それがお前のダメなところだ。お前は世間に負け、妥協している。常に深夜を生きる俺の気持ちがわからないか?」
「別にわかりたくないし。」
「だめだ。お前と話していてもラチがあかない。」

こんな感じでケンジはいつでもテンパリ気味。
わたしは本気でもうケンジに辟易している。悪い人ではないと思うけど、もうついていけない。

「私達・・・。倦怠期ね・・・。」
「深夜36時30分。ケンジと幸子は倦怠期に突入。」
「別に今入ったわけじゃないから!それに昼だし!!」
「馬鹿め。俺は正直今嬉しかった。お前が俺達の関係を真剣に述べようとした。まさしく深夜の会話らしいじゃないか。お前ももうすぐ深夜の住人だ!!」
「もういいよ・・。わたし帰る・・・。」
「深夜36時35分。幸子はカフェを出る。」

その日の夜、わたしはケンジのアパートを訪ねた。本当に別れようと思って。

「おう。幸子。今何時だと思ってんだ。深夜47時だぞ。もうすぐ俺達の時間、午前0時だ。」
「うん・・・。そうね・・・。その事なんだけど。」
「おう。なんでも言ってくれ。」
「もう・・別れよう・・・。今回は本気なの・・・。本当に別れよう。」
「・・・・・・。」
「け・・けんじ?」
「午前47時50分。ケンジ、自己嫌悪に陥る。」
「け・・・ケンジ・・。」
「幸子。俺が悪かった。俺は最低だ。俺には何もない。仕事も、お前に対する優しさもない。空っぽのゴミだめさ。」
「ちょ・ちょっとどうしたの。いきなり。」
「いや、ちがう。俺は玉ねぎだ。くさった玉ねぎだ。むいてもむいてもなんにも出て来ない。むき終わったら何も残らない。」
「そこまで言わなくても・・・。」
「俺に残されたのはお前だけ。お前がいてくれるから俺は生きていける。お前は俺の全てだ。」
「もうわかったから・・。急にどうしたのよ。あんたが弱気になるなんて珍しいじゃん。」
「珍しかったな。驚かせてごめん。俺はダメな男だ。いきなり弱気になるなんて俺は最低の男だ。」
「うん。わかった。わかったから・・。別れるのはもう少し考えてみるから・・。」

その時、時計が午前0時をさした。

「ピキーン。午前0時。ケンジは自己嫌悪から覚める。おう。幸子。お前、バク転してみろ。」
「なんなのよ!突然!」
「バク転なんて突然やるからバク転なんだ。のんびりバク転する馬鹿がどこにいる。お前は日本の恥だ。」
「もう!!元に戻ってるじゃない!」
「元に戻る?俺は元に戻ったのではない。また新しく生まれ変わったのだ。俺は毎日午前0時。新しいケンジに生まれ変わる。いや、正確に言うなら今はもうサトシだ。」
「全然意味わからない。」
「そしてお前は芳子だ。」
「幸子だし。」
「更に言うならお前の親父は政治家だ。」
「普通のサラリーマンだし。」
「そーかー・・・・・。良かったな!!」
「何がよ!!」

こうして結局いい感じに丸めこめられてしまい、今日も別れることが出来なかった。
結局、わたしにはこんなケンジがお似合いなのかも・・・。

「午前25時。幸子はケンジに惚れなおす。」

明日こそ絶対別れよう。

投稿者 hospital : 2002年06月28日 14:25