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2002年08月28日

太い女

海岸線沿いを車で飛ばしていた。夏だ。どこもかしこもカップルだらけ。楽しそうだ。
助手席に目をやる。最近更に太った女房がカラムーチョを一気食いしている。
「なぁ。奈緒子。もう少しゆっくり食べたらどうだ。」
妻は返事をしない。いつからか返事をしなくなった。

「なあ。奈緒子。ドライブなんて久しぶりだな。」
妻は黙ったまま、カラムーチョを食べている。
「なあ。奈緒子。今日の夜、花火大会あるんだよ。行ってみるか。新婚時代思い出して。」
妻は返事をしない。
「なあ。奈緒子。離婚するか。」
「しない。」

太い女だ。見た目も中身も太い。奈緒子は外に出ない。
放っておけば一年中、外に出ないだろう。
だが、いつも小さなポシェットバックを肩から下げていて、
中には真っ赤な口紅が一本と、花柄のハンカチと、メタリカのCDが10枚入っている。
「何がしたいんだ。奈緒子。」
一度だけそう聞いた事がある。奈緒子は久しぶりに笑ってつぶやいた。
「ロックンロール・・・・・。」
意味がわからない。


「なあ。奈緒子。何か飲むか?」
俺がそう聞きながら横目でちらりと奈緒子を見ると、
すでにビールを飲み始めていた奈緒子と目があった。奈緒子は少し照れていた。
「奈緒子。眠たかったら寝ていいぞ。」
案の定、すでに寝ていた奈緒子は一瞬目を覚まして、俺をちらっと見て、また寝た。
「なあ。奈緒子。離婚するか。」
「しない。」

太い女だ。

俺は車を走らせ、人気の少ない岩場の海岸を目指していた。
(もう充分だろう。奈緒子。一緒に死のう。)
俺は心の中でそう思った。するとどこからか奈緒子の声が聞こえた。
(嫌よ。)
奈緒子は眠ったままだ。どういうことだ。しかし、また奈緒子の声が聞こえた。
(あたし、実はテレパスなの。)
なんてこった。奈緒子の声が聞こえる。俺は心の中で聞いてみた。
(離婚するか?)
(しないわ。)

あきらめのついた俺はガードレールの切れ目をめがけて突っ込んだ。
そして俺達の乗った車は100m下の岩場に向かって落下した。
落下の最中、奈緒子に心の中で話しかけてみた。
(奈緒子。怖いか。)
(怖くないわ。あなたと一緒だもん。)
(心の中だと素直なんだな。)
(うん。アタシ照れ屋だから。)
(こんなことだったらもっと話しておくんだったな。)
(そうね。でもしょうがないわ。アタシ幸せだったよ。)
(そうか。良かったよ。生まれ変わってもどこかで会えるといいな。)

「そうでもないわ。」
「奈緒子!」

太い女だ。

投稿者 hospital : 2002年08月28日 15:50