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2002年09月29日

東京2

満員電車に乗った。

運良くイスに座れて一息つこうとした。ヘッドホーンで音楽を聴いて寝よう。
僕はそう思ってバッグからヘッドホーンを取り出した。
落ちついて前を向いた瞬間。

目の前にヘソがあった。僕の目の前に『ヘソだしルック』の女が立っていたのだ。
音楽を聴きながら僕はヘソを何の気なしに眺めていた。
何てことないヘソだ。
僕はだんだんと目の前30cmに長々とヘソをつきつけられている状況を不思議に思い始めた。
女の顔を見上げてみた。
険しい顔をして外の景色を眺めている。東京の乗客は大抵顔をしかめている。

まぁいい。へそくらい我慢しよう。こいつだって悪気がある訳じゃない。
一人一人不安を抱えてるんだ。

「まあな。」

声がした。蚊の泣くような小さな声だ。

「そりゃあな。人生だからな。」

誰だ。僕は辺りを見渡したがそれらしき人物はいなかった。
そして

ヘソがあった。

そして、そのヘソの両脇から腕が生えていた。小さな小さな腕だ。
その小さな両腕を振りまわしながらヘソは更にしゃべり続けた。

「そっちはどう?元気?むぎゅぅ。」

なんだ?僕にしゃべりかけているのか?

「お前以外に誰かいるか?むぎゅぅ。」

なんてこった。とりあえず僕は会話をすることにした。
このヘソ、妙な癖があって、自分の会話の終わりに必ず
『むぎゅぅ。』と言いながら自分の顔(ヘソ)を両腕で絞めつけるような素振りを見せた。
かわいかった。
なんてかわいいんだ。
僕はそのヘソが妙にかわいく見えてきてニコニコしながらヘソを眺めていた。
女の方はあいかわらず険しい顔をして外の景色を眺めている。
本人は気付いてないのだろうか。

「かわいいなんて照れるじゃねぇか。やめてくれ。むぎゅぅ。」

僕は初めて満員電車の中で幸せを感じていた。
しばらく話していると、ヘソはすまなそうに言った。

「ごめん。そろそろ降りるみたいだ。また今度な・・・・って会わないだろうな。東京は広いからな・・・・。」

僕もなんだか寂しくなってきたが、その女とヘソは電車を降りてしまった。
妙な体験だった。
あいかわらずの満員電車で、今度こそ音楽を聴きながら寝ようと目をつむろうとした。
ふと僕の横に座っている女性が目に付いた。真面目そうな女性だった。
その人はさもおかしそうに口を抑えて声を出さないようにして笑っていた。
なにかをマジマジと見つめていた。
目線の先には立ちながら新聞を読んでいるサラリーマン。
そのサラリーマンの股間をマジマジと眺めているのだ。
サラリーマンの股間はなにかもぞもぞと動いているように見えた。
しかし、痴漢やセクハラのような嫌らしい動きではなく
かわいらしくどこかセクシーですらあった。
僕には聞こえなかったが、その股間も踊りながらその女性に何か話しかけていたのだろう。
その女性のうれしそうな顔を見ていたら僕までうれしくなってきた。

東京も捨てたもんじゃないな。
僕は久し振りに穏やかな顔をして電車を降りた。

投稿者 hospital : 2002年09月29日 09:40