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2002年09月29日

テトリスな男たち

朝、会社に向かう途中のことだ。
前方からゆっくりと、しかし着々と姿を変えながら僕に近付いてくる男がいた。
肘や頭をカクリカクリと2秒おき程度に折り曲げ、形を変えながら近付いてくるのだ。
そして、僕の首やワキにちょうどうまくフィットするような形で僕の前に現れたその男はそのまま、僕に密着した。

「テトリスですよ。」

その男はボソッとつぶやいた。そいつの顔と僕の顔は上下逆向きで密着していた。
すぐに払いのけようとしたが、それも面倒な気がした。
マンネリな仕事。退屈そうな妻。グレ始めた娘。
一体俺は何のために。
いろんな憂鬱があわさってテトリスくらいで別に動じる気にもなれない。

「嫌じゃないんですか?」

その男は僕に聞いてきた。

「何がだ。」
「何がって知らない男にいきなり密着されたら嫌じゃないですか?テトリスです。って言われて納得する人は珍しいですよ。」
「そうかい。まぁ気にするな。そういう気分なんだ。」
「そうですか。それじゃあ、もっと仲間呼びますね。」

男はそう言うと、何か合図を出した。
すると、スーツを着て会社へ向かう途中に見えた男たちが一斉に向きを変え
僕の方にゆっくりと近づいてきた。
皆、無表情でカクリカクリと体の関節を動かしていた。

あ、今一人。あ、また一人。鈍い衝撃が男たちの体を通して僕に伝わってきた。
次々と密着していく男たち。1分経った頃にはその数はもう100人に達した。
隣り合った男たちはそれぞれガヤガヤと話し始めた。

「いやぁ。ウチの上司がこれまた嫌な奴でね。」
「僕の所も同じですよ。ロクな指示も出せないくせに態度ばっかりでかくてね。」
「おい。山田君。それは僕のことかね。」
「げ!部長!」
「まぁいい。ウチの娘なんて家出中なんだよ。」
「部長も大変ですねぇ。」

次々と男たちの数は増えていった。
たまに器用に関節を折り曲げてスキマに入ってくる男がいて、その場合はきれいに一列そろう。
一列そろうと男たちは

「あぁ。そろっちゃったなぁ。しょうがない。会社にでも行きますか。」

と言いながらまたかばんを持って歩き始める。それがこのテトリスのルールらしい。
だんだんと皆、列をそろえ抜けていった。
最後に僕と最初の男だけが残った。

「どうですか?」
「どうですか?って何がだ。」
「気分は晴れましたか?」
「晴れないよ。余計重くなったくらいだ。」
「しょうがない。じゃあもっとレベルアップしますね。」

そういうと男はまた合図を送った。
するとさっきよりも早いスピードで男たちが集まってきた。

「レベルアップってスピードのことか。単純だな。」

僕は男に嫌味を言ったが男は何も答えない。次々に男たちは合体して行く。
そして例のごとくガヤガヤと話し出した。

「先日、妻を刺したよ。」
「僕なんて娘に刺された。」
「息子の乗った飛行機が墜落したよ。」
「親父が発狂して僕の家を燃やしてしまったよ。全焼だ。」
「妻がね。性転換手術を受けたよ。」

気持ちは晴れなかったが、なんとなく会社へ行こうという気は起こってきた。
そうこうしているうちに、僕の列も一列そろい、抜けることができた。

今日も一日がんばろう。

投稿者 hospital : 2002年09月29日 09:45