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2002年10月01日

姉さんが変わった

友達の紹介でしょうがなく会うことになった。女からの指定で6時に代官山待ち合わせ。
ちっ。イモくさい。ブスに違いない。俺はそう踏んでいた。

しかし現れた女はブスではなかった。というよりもどこか妙な違和感があった。
まず顔はどこからどう見ても俺の姉そっくりで、本人もそのことを自覚してるようなのだ。
「お姉ちゃん?」
当然俺は尋ねた。
「そうだけど、違う。としか今は言いようがない。」
姉はそれ以上聞かないでというような素振りをした。
俺は聞くのをやめ、姉として接するのをやめた。そうするのがルールだと思ったから。


「なんか食べよっか。何が好き?」
姉は照れながら
「あたし小食だから…。なんでもいいけど。」
姉は嘘をついていた。本当は大食いで牛丼が大好きなのだ。本当は牛丼を食べたいに違いない。
俺は気を効かせて
「俺、牛丼とかでいいんだけど。」
と言ってみた。すると姉は
「別にいいよ。」
と言った。なんなんだ。俺はよくわからなくなってきた。
いつも俺のことをアゴで使い、俺も姉のことを『マユゲ』と呼んできた。(小学校の頃、姉は眉毛が濃かったから)
そんな姉が今、俺の前で一人の女として普通に装っているのだ。
聞かないことがルールだと思ったが、俺はもう一度だけ聞いてみた。
「お姉ちゃんだよね?」
「そうだけど。違う。」
どういうことだ。俺はモヤモヤした気持ちのまま牛丼屋に入った。
俺は『並』を注文したが、姉は

「特盛。少なめで。」

と注文していた。おしとやかを装ったつもりらしいが完全に間違っている。
『並を注文しろよ。』と言おうと思ったがやめた。言わないことがルールだと思ったから。

牛丼屋を出た後も、俺達は音楽や映画の話など知り尽くしているはずの話をした。
姉はトランス系が好きだと言った。
家で毎日、中島みゆきを聴いている姉をよく知っている俺になんでそんな嘘をつくのだろうか。
好きな映画は『ユーガットメール』だと言った。
家の姉の部屋には13日の金曜日シリーズがすべてそろっているというのに。

「なんか変わりたくてさ。」
姉は急にそう言い出した。
「何が?」
「何がって自分がよ。もっとスムーズに生きられないかなって思って。」
「今は・・つまり姉ちゃんなの?」
「そう。あんたもいつも通り話していいよ。」
「なんだよぉ。びっくりしたよ。なんでさっきまであんな他人ぶってたの?」
「だからあたしは変わりたかったのよ。そして実際変わったのよ。あんたは気付かなかったみたいだけど。」
「え?」

そう言われて姉を見てみるといつもよりもかなり胸が大きい気がした。

「これって・・・・」
「そう。大きくしたのよ。豊胸よ。」
「なんでだよ!そんな事する必要ないのに!」
「なかったらやらないわよ。する必要があったからやったの。」
「男にやれって言われたの?」
「違うのよ。ボスに『ポイズンボディーになれ。』って言われたの。」

ボス?ボスって誰だ?姉は銀行に勤めている。上司のことだろうか。

「ボスが『ポイズンボディーになってトニーを口説いて来ないとジョニーの命がないぞ。』って言うのよ。」

トニー?ジョニーの命?トニーって誰だ?ジョニーって誰なんだ。

「しかもトニーをちゃんと口説けたら『風の紋章』がもらえるって言うのよ。時の神殿で。」

風の紋章?時の神殿?ゼルダの伝説じゃないか。姉はどうしてしまったんだろうか。

「そしたらさ、あたしも変われるかなって思ったの。」

俺はもう理解するのを諦めた。
姉は変わりたかった。そのためにポイズンボディーを手に入れる必要があった。
それだけのことだ。

姉は次の週 『自分は実は天皇家の生まれだ』 と騒ぎ始めた。
そして姉は入院した。心配そうに見送る俺に姉はさも『問題ない』と言う顔で

「大丈夫。ルーラを唱えて帰ってくるから。」

と言った。俺は溢れでる涙をぬぐう気になれなかった。

投稿者 hospital : 2002年10月01日 09:59