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2002年10月20日

ジョンとヨーコの神隠し

ワインを買いに行こうとダコタアパートを出たジョン・レノンとその妻ヨーコ・オノ。いきつけのリカーショップ目指して西72ストリートを真っ直ぐ進み、ブロードウェイとの交差点を渡った途端、見慣れたニューヨーク・アッパーウェストサイドの街並みが突然姿を消し、二人は奇妙な店舗ばかりで埋め尽くされたとある建物の中に迷い込んだ。

ジョン:ヨーコ、なんだかここはニューヨークじゃないような気がするんだけど。
ヨーコ:ジョン、あたしもそう思うわ。
ジョン:いったいどこなのだろうね。
ヨーコ:いったいどこかしらね。
ジョン:ヨーコ、もしかして僕たちシュルレアリスティックな夢でも見ているのかな。
ヨーコ:ジョン、あたしたちの愛が世界を変えてしまったのかもよ。

そんな二人の前をぞろぞろと何人もの東洋人が通り過ぎる。

ジョン:ヨーコ、みてみろ、東洋人ばかりだ。僕たちは道を間違えてチャイナタウンまで来てしまったのかもしれないね
ヨーコ:だったらちょうどいいわ。あたしいま北京ダッグがむしょうに食いたいの。
ジョン:ヨーコ、君はさっき蝙蝠を2匹とトカゲを1匹たいらげたばかりじゃないか。
ヨーコ:あら、腹が減ってはアヴァンギャルドはできぬは。
ジョン:やれやれ、君のバケモノっぷりにはあきれるね。
ヨーコ:でも、ジョン、どうもあたし、ここはチャイナタウンでもない気がする。

ヨーコは目の前を通りかかった一人の男に尋ねた。
What’s the name of this place?
は?
It’s not Chinatown, is it?
え?
英語が通じない。
ためしにヨーコは日本語できいてみた。
ねえ、ここどこよ?
男は答えた。
ブロードウェイ!

ヨーコ:ジョン、ここはやっぱりブロードウェイだって。
ジョン:おお、なんてこったい。

ジョンは困惑していた。
自分が家に閉じこもって素っ裸でギターをひいたりイラストを書いたり自然食を食べたりマリワナを吸ったり息子のショーンと遊んだりヨーコとベッドインしたり世界平和について考えたりヌード写真で自分が包茎であると世界中に知らせてしまった恥ずかしさのあまり寝床でのたうちまわったりしている間に、ニューヨークはエコノミックアニマル・ジャパニーズたちに占領されちまっていたとは。
と、そう思った。

ヨーコは冷静だった。
ここがブロードウェイ?日本人だらけのブロードウェイ?
おかしい。昨日はこんなふうではなかったもの。
だいたい、ここはまるでアメリカじゃないみたい。そして現代じゃないみたい。
すわっ。ここは日本よ。それも未来の日本よ。
いま、そんなインスピレーションを感じたわ!そうよ。きっとそうよ!
ヨーコのラディカルでプライマルなヒラメキが炸裂よ!

なんのことはない。目の前に日本語のカレンダーが貼ってあっただけだ。
カレンダーの日付表は2000年の12月を示し、
その下には、東京都中野区役所からのお知らせと、
さらに近くの壁には、「中野ブロードウェイへようこそ」という看板が掲示されていた。

ヨーコ:ジョン、あたしたち未来の日本に来てしまったのよ!
ジョン:なんだって。そいつはとびきり愉快なジョークだね。君にしちゃあ上出来さ。
ヨーコ:ジョン、ほんとうなのよ。ここは20年後の日本の中野ブロードウェイっていうところなの。
ジョン:いきなり時間も場所も変わるって、そんなのありえるわけねえだろ、このキチガイババア!
ヨーコ:もう、ほんとなんだってば。みてよ、ほら、日本人と日本語のお店ばかりじゃない。
ジョン:ちがうね。ゼニゲバジャップが世界中から金をむしり取ろうとし始めたんだ。畜生。こんなことなら、日本なんてあのときの戦争でアメリカに…。
ヨーコ:ジョン!
そんな二人を富士屋AVICで中古CDを漁り終え、
帰路につこうとしているビートルズフリークの会社員戸田さんが見ていた。
やあ、なんだあの二人。生前のジョンとヨーコのそっくりじゃないか。
すごいなあ。こりゃいいものをみた。カメラもってくればよかったよ。

そして、タコシェ帰りのサブカル少年渡辺君もみていた。
どひゃあ。ジョンとヨーコにそっくりじゃんあの二人。
完全になりきってるなありゃ。こわいこわい。
多いんだよな、このへんああいうの。

さらに、まんだらけにアニメグッズを買いにきていた
アニメオタクの高橋さんも見ていた。
おいおい、すごい気合の入ったコスプレだなあ。
洋楽オタクもやるもんだ。
俺もまだまだだな。今度のコミケはあれくらい頑張るにょ。

最後にもう一人、中年のアメリカ人がみていた。
あれれれ、あの二人、どこかで見たことあるぞ。
あのババくさい眼鏡の男に、あのバケモノ顔の女は…え、うそ、まさか…。
ジョンとヨーコだ!
中年のアメリカ人は叫んだ。
おーい、ジョン、ヨーコ、こっちこっち~。

ジョン:むむむ。なんだあのデブ。
ヨーコ:なにかしらね、あのもみあげ大魔王。
ジョン&ヨーコ:あーっ!
ジョン&ヨーコ:エルビス!!

その中年のアメリカ人は1977年に自宅の浴槽で死んだとされた、
キングオブロックロール、エルビス・プレスリーその人であった。

ジョン:エルビス、あんた3年前に死んだはずじゃ。
エルビス:俺はこのとおり元気だ。死んじゃいない。3年前にこの世界に迷い込み、それからずっとここで暮らしているんだ。
ジョン:それでいったいここはどこなんだ?
エルビス:2000年の東京の、中野ブロードウェイさ。
ヨーコ:ほらね、いったとおりじゃない。
ジョン:うるせえ、ブス!
ヨーコ:キーッ。なによ、この皮カムリ野郎!
エルビス:君たち喧嘩は後にして、今すぐ戻るんだ。元の世界へ戻るんだ。
ジョン:いやだい。せっかく来たんだ見学くらいさせろい。
ヨーコ:そうよそうよ。
エルビス:いま戻らないとずっとここで暮らすはめになっちまうぞ。
ヨーコ:まあ、それは困るわ。ショーンが心配だもの。
ジョン:たしかに。
ヨーコ:でも、エルビス、どうしてあなたは戻らないの?
ジョン:そうだそうだ。人に戻れてなんてぬかして、じゃあ、あんたはなんだってここにいるんだ。
エルビス:もう戻れないんだ。
ヨーコ:なぜ?
エルビス:ロックをとられちまったからさ。
ジョン:だれに?
エルビス:この世界にさ。
ヨーコ:まあ、なんて前衛的なセリフ!
ジョン:まったくだ。あんた最高に前衛的だよ。全然意味わかんねえもん。
エルビス:いや、前衛とかそういうんじゃなくて…。
ヨーコ:あたしはわかる!すっごくわかる!つまり年々商業化する音楽産業の行く末を近未来の日本によってカリカチュアライズし、その中の非ロックを象徴する記号として自らが演じ、さらには我々ジョン&ヨーコを追い払うという行為でアンチテーゼとしてのなんたらがうんたらでうんぬんで…。
ジョン:ちょ、ちょっとまってくれヨーコ、じゃあ、なにかい、僕たちが迷い込んだこの場所はエルビスよって作られた大掛かりなひとつのアート作品ってわけなのかい。ここが日本であることも、20年後でもあることも、全部エルビスが仕組んだ嘘っぱちなんだね。
エルビス:いや、あの、ちょっとちょっとお二人さん…。
ヨーコ:まったくたいしたもんだわ。ねえ、信じられる?これらを完成させるまでに3年も死んだふりしてたのよ。3年よ。エルビス、あたし、あなたほどグレイトな芸術家は他に知らないわ!
ジョン:エルビス、僕はあんたのこと見直したよ。正直、後期のあんたの音楽には失望していた。でも、あんた、見事新たな新境地を切り開いたね。それもあっさり音楽を捨ててアートでだなんて!
エルビス:わかったわかった。もうそういうことでいいから。たのむから、はやく元の世界に帰ってくれ。
ヨーコ:ねえ、エルビス。今度はあたしたちと一緒に反戦運動もしてみない?
ジョン:そいつは名案だ。三人でベッドインしようよ!3Pしよう!
ヨーコ:もうやだあ。ジョンってばあ。
ジョン:えへへへ。冗談だよ。めんごめんご。
エルビス:はいはい。いいからおうちに帰ろうね。
ヨーコ:うん。あたしすぐ帰る。あんたのこのパフォーマンスを無駄にはしたくないから!
ジョン:俺も帰る。そしてあんたのために曲をつくるよ。題名は「エルビスの魂」。どうだ!
ヨーコ:それ超クール。
ジョン:いえーい。
エルビス:もう、うるせえな。とっとと帰れよ。この建物を出ると商店街がずっと続く。そこを全部抜ければ元の世界だ。さあ、はやく。ロックをとられる前に。
ジョン&ヨーコ:オーケー、バーイ、エルビス!
二人は中野ブロードウェイを飛び出し、
買い物客でごった返す休日の中野サンロードを走った。

ジョン:いやっほい。アヴァンギャルド最高!
ヨーコ:きゃっほう。エクスペリメンタルアート最高!
ジョン:ロックンロール最高!
ヨーコ:エルビス・プレスリー最高!
ジョン:あはははは。
ヨーコ:うふふふふ。
ジョン:よおし、ヨーコ、出口まで競争だあ。
ヨーコ:のぞむところよ。絶対負けないわ。

先にヨーコが自慢の妖術を使い時速80キロで中野サンロードを駆け抜けた。
わーい。勝った。勝ったー。ジョンのノロマー。
そんなふうに飛び跳ねる彼女が今いるのは、ニューヨーク、ブロードウェイと西72ストリートとの交差点。あたりを見渡しても、今までいたはずの中野ブロードウェイもサンロードもどこにも見当たらない。そしてそこに、ジョンの姿はまだない。

ジョンはまだ中野サンロード内にいた。
走るのを止め、携帯ショップの前でたたずんでいた。
携帯ショップの有線放送が流す音楽にジョンは耳を奪われていた。
曲はモーニング娘。で恋愛レボリューション21。
わあお、なんてラブリーでピースフルな音楽なんだ。
ジョンは完全にうちのめされていた。
そしてこのときジョンは、ロックを無くしてしまった。

ふと我に返り、完全にヨーコにおいていかれたことに気がついたジョン。
あわててサンロードを飛び出した。が、しかし、そこでジョンの目に映ったのは、瀟洒なアパートメントが立ち並ぶ1980年のニューヨークのアッパーウェストサイドではなく、悲しいかな、テレクラのティッシュ配りが立ち並ぶ2000年の中野駅北口ロータリーなのであった。ロックを無くしたジョンはもう元の世界に戻ることは許されないのだ。

こうしてジョンは1980年のニューヨークから姿を消した。
残されたヨーコは彼を死んだことにした。芸術仲間達とともに、極秘で架空の殺人事件をでっちあげることで、ジョンにふさわしい死を演出することに成功した。
これが有名なジョンオタクのチャップマン君によるジョン・レノン銃撃事件であり、もはや伝説と化したロックンロールスター・ジョン・レノンの最後である。また同時に、ヨーコ・オノによる最も偉大な芸術行為でもあるのだが、それはもちろん世間には知られていない。

ロックを無くしたジョンは21世紀の東京で暮らしている。
中野近辺で丸眼鏡のイギリス人をみたら間違いなくジョン本人だと思っていい。
ちなみに筆者は東中野のミスドでエルビスとドーナツをパクつくジョンの姿を一度みかけたことがある。

投稿者 hospital : 2002年10月20日 10:10