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2002年11月04日

憧れ

ろくでなしブルースが好きだった。

ろくでなしブルースに憧れて喧嘩を売って失敗した事もある。
そんな俺ももう大人になった。
たまに思い出して、今の落ちついてしまった自分と比べる。

電車に乗る。お年寄りが席を探している。俺は席を譲るべきか考える。
こんな時、俺は前田さんのことを思い出す。
前田さんだったら譲るだろう。
俺は譲ることにした。お年寄りは特にお礼も言わず、当たり前のように席に座った。

席を譲ったのに当たり前のように座られると少し頭に来る。
今の俺はそれでも別にしょうがないと思う。そんなこともあるさ。
俺はそう思う。

だけど前田さんだったらどうだろう。
前田さんは顔を真っ赤にして「なんともしがたいような顔」をして
怒りを沈めようとするだろう。
そして無理やり納得して「俺って大人だ。」と嬉しそうに思うのではないだろうか。
俺の知ってる前田さんはそういう人だ。
そんな前田さんが好きだ。
だから俺も

「なんともしがたい顔」をしてみる事にした。

しかし、こんな顔をしてみようと思ってそんな顔になった試しはあまりない。
クールに決めたつもりだった顔が実際はただのいじけた面だったという事はよくある。
この時もそうだった。

俺が試みた「なんともしがたい顔」は実際には「いかにも物欲しそうな顔」だった。
そして俺は「いかにも物欲しそうな顔」をした後、前田さんがそうしたように
無理やり納得し、「俺って大人だ。」と嬉しそうに思う事にした。

しかし、これも上手くいかなかった。

もちろん自分では上手くいってるつもりだったが
実際は「俺って大人だ。と嬉しそうに思った顔」ではなく、

「俺ってイケてる。と自嘲気味に思った顔」だった。

「いかにも物欲しそうな顔」から「俺ってイケてる と自嘲気味に思った顔」への奇跡的な変換は
お年よりの横に座っていたチンピラ風の男を腹立たせるのには充分だった。
男は俺に

「喧嘩売ってんのか。」

と言った。俺はこの言葉におびえた。今の俺だ。
今の俺だからおびえたんだ。心を強く持て。

俺は前田だ。

その決意をもとに

「上等だ。」

と言ってしまった。結局俺は錦糸町でそのチンピラに強引に降ろされ、ボコボコにされた。

前田さんだったら逆にボコボコにしていただろうに。

現実はこんなにも厳しかった。

投稿者 hospital : 2002年11月04日 14:55