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2003年01月11日

私の夫

朝起きると、枕元に、何やら書かれているメモが置いてあった。

『眉毛剃っておきました。
      
          夫より』

あなた・・・。
私の夫、アキオは2年前から鬱病らしい。

仕事から帰ってきても何も言わず、自分の部屋に閉じこもってしまい、
朝まで出てこない。仕事を休むことも多い。
しばらく、夫の顔を見ていない。何を話しかけていいのかわからない。

私は鏡に映った自分の顔を見た。
眉毛はきれいになくなっている。

それでもいい。夫が久しぶりに見せた『茶目っ気』と思うことにした。
私は朝ごはんの支度を始めようと振り返った。

その瞬間。

何かがおかしかった。後頭部に感じる風が昨日までとは違う。
私はあわてて自分の後頭部を触ってみた。

髪の毛がなかった。

私は慌てて、体をよじって鏡に自分の後頭部をうつしてみた。
しかし、よく見えない。
ふと、鏡の向かいの壁に何やら書かれているメモを発見した。

『お前の後ろ髪は剃られるべくして剃られた。

                   夫より』


格言めいたメモだった。
夫は、昔から酔った勢いで格言めいたことを言うのが好きだった。
久しぶりに昔の夫を思い出した。

私は台所へ行き、エプロンをつけた。

つける前からわかっていた。それは紛れもなく
エプロンと言うより

セーラー服だった。

私は用意されていたスカートまではいた。
ポケットに手を突っ込んでみると案の定、メモが入っていた。

『セーラー服が好きだ。
  
         夫より』

昔から自分の感情を見せない人だった。
何がしたい。こうしてくれ。そんなことを何も言ってくれない人だった。

夫は私に助けを求めているのだろうか。

私はそう思った。

アキオさん・・・・。

私は早足で夫の部屋に向かい、思い切ってドアを開けてみた。
すると夫はいない。

あるのは埃をかぶった仏壇だけ。

仏壇の中には笑っている夫の写真。

私はミドリ。36歳。

夫を亡くしてもう1年になる。

投稿者 hospital : 2003年01月11日 07:58