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2003年01月16日

弟の成長

中間テストも終り、昌子は自然と軽やかになった足取りで高校から家までの道のりを駆けていた。

「ごっきげんっ♪」

空には雲ひとつなく、太陽はさんさんと大地に降り注いでいる。
昌子にとって今世界は輝かしく、来春から通うことが決まっている専門学校への期待に胸を膨らませ、不幸などというものとは縁のないすがすがしい気持ちを満喫していた。

「あら、弟のタケシだわ。また女の子たちとばっかり遊んで・・・」

家まで後すこしという四辻まで来て昌子は弟のタケシが近所の悦子ちゃん、清美ちゃんと遊んでいるところに出くわした。
弟のタケシはまだ小学3年生である。活発な昌子に比べタケシは引っ込み思案な性格で3年生になるというのに女の子たちとばかり遊んでいる。そんなタケシは昌子にとっていつも気にかかる頼りない弟であった。

しかし、今日ばかりはそんな光景も昌子の気持ちを和やかにさせた。自分の弟だ。ほうっておいてもその内男の子らしく成長するだろう。今日のすがすがしい気分は昌子にそう思わせたのだ。

「いったい、どんなことをして遊んでいるのかしら?どうせまた、おままごとなんかのお付き合いかしら・・・、まったく男のくせに・・・」

悪戯っぽい気持ちから昌子はこっそりと隠れて、話していることを聞いてやろうと思いたち、石塀の影に隠れ、三人の様子をうかがった。
あたりは静かで、三人の子供たちの話し声は、はっきりと聞こえた。


「ひっひっひ、悦子ちゃんええ乳しとるやんけ」
「やーよ、たけちゃん、あたいの乳はツトム君のなんやからね」
「ひっひっひ、ええやん?減るもんちゃうやろ?触らせてーな?」
「やーよやーよ。あたい触らせるのやーよ」


何故に関西弁?
昌子は怪訝に思った。否、関西弁にこだわっている場合じゃなく、おままごとをやっていると思っていた三人の会話が、まったく想像外だったことに心底ぞっとしたのだった。

「いやー言うてるやん、タケちゃん。ほんましつこいで」
「なんや清美、おまえいつからそんなえらそな口聞く様になったねん?」
「えっちゃん、いややゆうてんねや。そのへんで勘弁しときー」
「おんどれ、わいがソープから拾ってやった恩忘れたんか?あ?」
「きよみちゃん、もうええねんて。あたいのことかばわんでも、あたいはええねん。たけちゃんが満足ならあたいも満足やねん。ほっといてえな」
「悦子、ほんだらあんた、また同じ事の繰り返しやで。3年前のこと思い出したりいや。あんたヒロシにも同じようにだまされとったやん。あたいまた惨めな悦子みたないわ」
「おんどれ、だまっときいや。いてこましたるぞわれ」


昌子は石塀に隠れたまま、一部始終聞き漏らすことなく聞き耳を立てていた。
はて、最近のキッズは随分発育がよいようだ。

「たけしったら・・・」

何が「タケシったら・・・」なのか自分でもよくわからないまま、今日あったことは全部夢だったのだと自分に言い聞かせたのだった。


昌子、高校最後の夏のことだった。

投稿者 hospital : 2003年01月16日 07:58