« ガードレール | メイン | なんでも鑑定士 »

2003年02月24日

密室

デパートへ行きエレベーターに乗った所、突然ガタンという音がして
エレベーターが止まってしまった。


やれやれ。面倒なことになった。
と思いながらも、俺は特に慌てることもなく落ち着いていた。
この密室の中には俺とエレベーターガールしか乗っていない。
俺は何の気なしにエレベーターガールに話しかけた。

「止まってしまいましたね。」

しかし、エレベーターガールは返事をしない。
それどころか俺に背を向け階数ボタンを眺めたまま、細かく震えていた。
そして、そのままの体制で突然早口で喋りだした。

「まさか襲われたりして。今、あたしに話しかけてきた多分、うん。声からして23かな。若い男。血気盛んな若い男よ。きっと彼はあと・・そうね。5分もしたら私に覆いかぶさるわ。それは間違いないんだから。」

どうやら俺が襲いかかるものだと勘違いしているらしい。
やっかいなエレベーターに乗り合わせたものだ。
しょうがない。耐えるしかない。そのうち動き出すだろう。
俺はそう思い、腕を組んで無言で壁に寄りかかった。

「まあいいわ。いざとなったら・・・・・・・から。」

何かエレベーターガールが喋ったが、早口すぎて後半を聞き取ることができなかった。
俺は耳をすまし、エレベーターガールがまた喋りだすのを待った。

「うん。大丈夫。いざとなったらまた豚さんに助けてもらえばいいんだから。」

豚さん?また豚さんに助けてもらう?
そう言ったのか?何を言ってるんだ。この女は。

「この前の時みたいに豚さんがコテンパンにやっつけちゃうはず。豚さんは強いから大丈夫。うん。大丈夫。」

エレベーターガールは細かくうなずきながら自分に言い聞かせるように何度もそう言った。
閉所恐怖症か何かだろうか。一種の錯乱状態に陥っているに違いない。
たまらず俺はエレベーターガールに話しかけた。

「大丈夫ですよ。襲ったりしませんから。」

どうせ聞く耳も持たないだろうが黙っているよりはいいだろう。
そう思い、また壁に寄りかかった瞬間。

女は突然、階数ボタンの上にある係員呼び出しボタンを押した。

まだ押してなかったのか。
まあいい。これで係員が気づいて助けに来るだろう。
俺はあきれたまま、壁に寄りかかり黙っていた。

すると、係員呼び出しボタンの上にある小さな穴がモソモソと動き出した。
なんだ?大体なんなんだ?あの穴は。
マイクにしてはあんなに大きな穴が開いているのは不自然だ。
そう思った瞬間。

その直径10cmほどの穴から、小さな豚が出てきた。

「あぁー。しんどーい。」

豚は疲れきった様子で穴から出てきた。
エレベーターガールはそれを見て、初めて振り返って俺の顔を見て言った。

「もう襲ったって手遅れよ。豚さんが来てくれたんだから。あんたなんてコテンパンにされちゃうわ。」

あまりの出来事に俺は口をあけたまま、何も話すことができなかった。
そして、2本足で立った豚がやさぐれた口調で話し始めた。

「俺だってなぁ。万能じゃねえぞ。お前が襲われるたびに助けてやれるとは限らねえんだ。自分の身は自分で守れよな。」

豚はエレベーターガールを見上げて言った。身長は50cmほどだ。
そして、豚は俺のほうを向いてファイティングポーズをとった。

「さあ。かかってこい。」

しかし、どこから見ても弱そうに見えた。
俺は試しに右足で豚の頭の辺りを突っついてみた。
すると豚はよろけて言った。

「・・おっと。。今日の相手はなかなかやりやがる。。おい。女。ちょっと下がってな。どうやら必殺技を出すしかなさそうだ。お前にまで怪我をさせるといけねえ。下がって頭を抑えてしゃがんでろ。」

豚がはき捨てるようにそう言うと、
エレベーターガールは『うん!わかった!』と言い、
豚に言われた通り、頭を抑えてしゃがんだ。

「できれば使いたくなかったが、やるしかない。悪く思うなよ。女に手を出したお前が悪いんだ。」

豚は俺にそう言うと、両手を上にあげて、一回深呼吸をすると

「くらえ~!」

と叫びながら一回でんぐり返しをして、俺の足元まで転がってきた。
俺は意味がわからず、口をあけたまま豚を眺めていた。
豚は立ち上がり、元の位置まで走って戻ると、額の汗を拭きながら言った。

「な・・なんてやつだ・・。この技が利かないとは・・。」

エレベーターガールはそれを見てまたガタガタと震えだした。豚は後ずさりしながら

「わ・・悪いが・・今日は助けてやれない!悪く思うな!」

と叫び、また出てきた穴の中に入ってしまった。
一体どうなっているんだ。
エレベーターガールはそれを見て脱力しきった顔で

「・・いいわ・・。好きにしなさい・・。」

と言った。


春の気配のする冬の終わりの出来事だった。

投稿者 hospital : 2003年02月24日 08:24