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2003年02月27日

なんでも鑑定士

鑑定ブームが巻き起こって久しい。以前テレビなどで、家に転がっている何の変哲もない物が、実は数百万円もするお値打ち物だった、ということが分かって喜んでいる人を見かけたものだが、それが高じて最近では「なんでも鑑定師」などという訪問鑑定が流行っているそうなのだ。


 彼らは電話一本で駆けつけて、物置や押入れなどの奥からお宝を発掘していく。なんだかそういった手合いに自宅を隅々まで検められるのはいまいち良い気持ちはしないが、妻がこの話をどこからか聞きつけてきて「なんでも鑑定師」とやらが今日来ることを私に報告した。

 昼過ぎに、我が家の呼び鈴がなった。

”ピンポーン”

「はい、山本ですが」
「うーん・・・120円・・・」
「え?」
「あ、私『なんでも鑑定師』の斉藤と申しますが」

 120円という囁きがなんだか気になったが、とにかくその男を家に招じ入れ早速鑑定を始めてもらうこととなった。慣れた様子で家に入ってきたその男は、迎えた私を一瞥するに、「やっぱり・・・」などと呟いた。「やっぱりって・・・なにがです?」「いえいえ、さて、早速ですがはじめさせてもらいます」。なんだか嫌な心持がしたが、こういったプロの仕事にお目にかかるのは初めてなので、興味深く彼の仕事を見守ることにした。

 長押から箪笥、押入れ、抽斗、戸棚。彼はあらゆるところを隈なく検めていく。その仕事振りを傍らで眺めていた私を背後にその男は

「120円に見つめられてると、なんだか仕事がやりづれえなあ」

 と、聞こえるか聞こえないかの小さな声を発した。一体なんのことだろう。

「あの・・・120円って、何がです?」
「いえいえ、あー、うぜー」
「え?うぜ・・・うぜー?」

 憤った私を無視して、彼はまた仕事を再開した。妻を呼び、なんとか怒りを抑えながらこのことを報告したところ、「あら、あの人たちDNA鑑定もするらしいのよ」と事も無げに言い放った。この言葉に私は我を忘れ、手際よく仕事を進める彼の元へ走った。

「おい、120円とはどうゆうことだ?」
「い・・いやあ、お客さん。『いい意味で』、ですよ。『いい意味で』」
「いい意味で120円とはどうゆう了見だこの野郎」
「・・・・・・・」
「おい。120円を納得のいくように説明してもらおうか」

 しばらく困惑した顔で俯いて黙っていた鑑定師だったが、ぼそっと「だって、野良犬と同じなんだもんなあ・・・」と呟いた。

「おい、もう一度その台詞をはいてみろ」
「あのね、お客さん、デフレの時代ですよ?」
「だから、なんだ」
「だから・・・・、吉牛に勝ってるじゃないっすか。マックにも勝ってる。安さで」
「おい、馬鹿にしてるのか」

「いやね、最近多いんですよ。でもね、物は考えようです。この時代、潤いがないでしょう?自分が120円ぽっちの価値しかないことが分かるのは確かに辛い。けどね、胸はって生きて行きましょうよ。よっ、120円。全部デフレのせいですよ。デ・フ・レ」

 デフレスパイラル。なるほど、時代が悪かったのか。納得しかけた私だが、そんなわけねーだろ、と怒りがこみ上げてきた。次の瞬間私は「百円均一」で購入した果物ナイフで、鑑定士のわき腹を貫いていたのだった。

 すべて、デフレが悪いのだ。

投稿者 hospital : 2003年02月27日 08:40