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2003年03月11日

一蓮托生

高校生時代の親友と10年ほどの無沙汰をしていた。
一ヶ月前のある日、その友人は突然俺の家を訪ねた。
金に困っているのだという。


「お前とはさ、10年前に『何が起きても絶対親友』って約束したよな」
「あ・・・ああ。困ってるなら、手を貸すけど。俺とお前はいわば運命共同体だからな」
「悪いな。久しぶりだってのに。首が回らないんだ。助けてくれ」

その日から、同居がはじまった。
確かにそいつと俺とは『無二の親友』といってもよい間柄だった。
そいつの苦しみは自分の苦しみだったし。互いの苦楽は全て共有していた。
お互いのためなら、なんでもしてやるくらいの硬い絆で結ばれていたものだ。

ある日のことだ。
トラックの運転手をしている俺はある異変に気づいた。
運転する時に必ずはめている右手の手袋に妙な感覚があった。
見てみると指が一本足りなかった。本来小指が収まる部分であるそこは、脱臼した腕のように、手袋の指の部分が振り子の真似事をしている。

手袋をとって確かめてみたのだが、そこにはまるで生まれてからずっとそのままであるかのように自然な四本の指が揃っていた。
どうしたことだろう。
家に戻り、事の次第を親友に報告する。「指が一本足りないのだ」
親友は当惑した俺を落ちつかせるかのように、「まあ、コーヒーでも飲めよ」と、インスタントコーヒーを淹れてくれた。
温かい親友の思いやりにほっとしながら、コーヒーを淹れるその男の右手を眺めるとも無く眺めていた俺は、ふと気づいた。

「おまえ・・・、6本あるじゃん」
「え?」
「待った待った!」
「待たない待たない」
「お願い!」
「無理」

前に出されたコーヒーを飲む。不条理を感じながら、目の前にいる男を眺めた。

「あれ・・・・、お前ってそんなに頭髪が濃かったっけ?」

薄毛が悩みだった親友の頭髪は以前と違って黒々と豊かだった。

「おまえこそ、そんなに薄かったか?」

もしや・・・と思って洗面所の鏡の前まで走った俺は、次の瞬間呆然と立ち尽くした。

「・・・・」
「無理」
「待った待った。なんで、俺こんなに薄くなってるの?」
「待たない」

そして、次の瞬間。呆然としながらも俺は、親友の胸が、まるで豊胸手術でも施したかのようにたわわなふくらみを呈していることに気づいた。
おまえ・・・・しばらく会わないうちにオカマになってたのか・・・?
前から思っていたが、不気味な親友だ。がくんと頭をたれた、その時。
ビール腹が最近の悩みの種だった俺のお腹がスマートになっていることに気づいたのだった。

「な?」
「『な』じゃねーよ」
「ま、いいじゃない。いいじゃない。そうゆうこともあるじゃない」
「・・・・・」
「お前の代わりに便所行ってくる」

茫然自失していた俺を後に残して、親友は便所へと立った。
涙が溢れんばかりに頬を伝っていくのがわかる。

「おーーい。お前涙流しすぎーーー。小便しなくてもよくなっちゃったー」

流れ出た涙は、アンモニアの匂いを呈していたのだった。

「俺と、お前は一蓮托生」

10年前の言葉を、俺は今更思い出していた。

投稿者 hospital : 2003年03月11日 08:45