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2003年03月14日

嫁と姑

この家に嫁いでもう3年になる。
夫は私の前に2度も結婚していたらしい。
彼は良い人だし、アタシはそのことについて気にはしていない。
詳しく聞いたこともない。

夫が仕事に行っている間、私は毎日、お義母さんと2人で過ごしている。
世間で言われているほど、やっかいなことではない。アタシとお義母さんは仲がいい。

お義母さんはうつろな表情で話し掛けてくる。

「どうしようもない時ってあるわね。」
「そうですね。なんでですか?」
「そんな時、あなたはどうする?」
「アタシは・・時間が経つのを待ってます。あがいてもしょうがない時ってありますから。」
「それじゃあ、待ってる時間の余裕がない時は?」
「・・・何かあったんですか?」
「あったのよ。」
「何があったんですか?」
「言えないわ。」
「そうですか・・。」

お義母さんは何かを抱えているらしい。アタシには教えてくれないけど。

「例えばの話よ。」
「はい。」
「ある所に、嫁と姑がいるとするでしょ?」
「はい。」
「仲がいいのよ。一見ね。」
「はい。」
「で、嫁はのほほんと生活してる。別にこれといった苦労もないのね。例えばの話よ。」
「はい。」
「でも、姑の方は嫁を憎んでいるの。もう今にも殺したいほどね。例えばの話よ。」
「はい。」

お義母さんは何か鬼気迫る表情で話し続けた。

「例えばね。」
「はい。」
「こんな刃物があるのよ。」

お義母さんはそう言って刃渡り50cmはある包丁をアタシに見せた。
よく磨いであるようでキラキラと光っていた。

「すごいですね。」
「そう。すごいのよ。きっとよく切れるわ。それでね。」
「はい。」
「試してみようと思うの。」
「はい。」

お義母さんはそう言うと、その包丁をアタシの胸元に押し付け、一気に力を込めた。
包丁は一気にアタシの体を貫いた。

「お・・お義母さん・・?」
「大丈夫。例えばの話だから。」
「例えばの話って・・・実際に・・包丁が・・・」

お義母さんは瞬きもせず、包丁の刺さったアタシの胸元を凝視しながら、お茶をすすり始めた。
アタシは意識が朦朧としてきた。


「もう2月も終わりだっていうのにまた雪が降ってるわ。」

今日は朝から雪が降っていた。
お義母さんは窓の外を眺めながらそう言うと、またお茶をすすった。

「例えばの話ね。」
「ハァハァ・・。」
「孫がいたら今ごろ喜んでたわね。子供は雪が好きだから。」

私と夫の間には運悪く子供が授からなかったのだ。

「次の人は子供産んでくれるかしらね。あなたどう思う?」
「ハァハァ・・・。」

義母さんと私は喧嘩なんてしたことがない。
気持ちを探り合って気まずい雰囲気になることもなかった。

私と義母さんは仲が良かったのだ。


「例えばの話。孫ができたら楽しいでしょうねぇ。あなたもそう思わない?」


部屋には義母さんがお茶をすする音と、あたしのハァハァという吐息だけが響いていた。

投稿者 hospital : 2003年03月14日 08:49