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2003年03月27日

井の中の貞子

その日、俺は残業で一人会社に残っていたが、終電の時間になり、帰ることにした。
オフィスは8階にあり、いつもエレベーターで降りる。
この時間、会社に残っている人はほとんどいない。
俺はエレベーターに乗った。

すると、目の前に貞子がいた。リングの貞子だ。

貞子は白いだぼだぼの服を着て立ち、強烈な上目使いで俺を見ていた。

俺と貞子を乗せたエレベーターは再び動き始め、 1階についた。
しかし、ドアは開かない。エレベーターは更に下降し続けた。
このビルはB1までしかないというのに、B1、B2、B3と下降し続けた。

ああ。死ぬな。

俺はなんとなく確信した。ヤケになった俺は貞子に話しかけてみることにした。

「なあ。」

貞子は返事をしない。

「なあ。貞子なんだろ?」

貞子は俺をじっと見つめたまま黙っている。

「俺のこと、殺すんだろ?」
「・・・・。」
「リング、全部見たよ。3シリーズ全部。一緒に見に行った奴なんて映画館で吐いちゃってさ。怖すぎて。はは。懐かしいな。あの頃は楽しかったなー。」
「・・・・。」
「ところでさ。」
「・・・・。」
「なんで俺なの?」
「・・・抽選・・。」
「抽選って・・。別に呪いのビデオ見てないよ。俺。」
「・・呪いのビデオ・・やめた・・。」
「やめた?」
「・・・なんか・・恥ずかしいんだけど・・あんまりもう・・人気ないじゃん?リング・・・ぶっちゃけ・・。」
「まあね。」
「だから・・殺し方変えよっかなって思って・・・。」
「だからってなにもエレベーターに出てこなくたっていいじゃん。」
「・・・違うの・・・。ほら・・アタシって『井戸』ってイメージあるでしょ?・・・あるよね?」
「あるよ。」
「だから・・・井戸もエレベーターも垂直直下型だし・・・・。ボキャブってみたって言うか・・・。」
「ああ。なるほど。」
「納得するんだ・・。」
「は?」
「なんか男のそういう所嫌いだな・・。変なところ見栄張ってさ。だってさ・・ボキャブって殺されるなんて、ホントは納得行ってないでしょ?しかもボキャブってなくない?」
「うーん・・・。」
「ほら。そうやって曖昧な一言でごまかそうとする。男はみんなそう。・・・そう?」
「そうかも。」
「良かった。アタシさ。ずっと井戸の中にいたし、ぶっちゃけ男性経験ないでしょ?って知らないか。」
「いや、なんとなく予想はつくよ。」
「だからさー。一回、『男なんて所詮系の話』してみたいじゃん?ってわかるわけないか。」
「いや、なんとなくわかる。」
「わかる?うれしー。かなり無理したんだよ―。なんかうれしーなー。」
「良かったね。」
「失敗したら恥ずかしいから殺しちゃおうって思ってたの。」
「じゃあ、俺、死なずに済むの?」
「わかんない。」
「は?」
「なんとなくさ。『魔性の女』も演じてみたいの。殺してもいい?」
「勝手にしろ。」


この後、俺は死んだ。

投稿者 hospital : 2003年03月27日 09:00