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2003年04月14日

小さなオバサン

夜遅く残業を終え、家に帰ろうとした時だ。外に出ると雨が降っていた。
今日は傘を持ってきていない。
ふと周りを見渡すと傘が一本、壁に立てかけてある。
こんな時間だ。会社に残っている人もいないだろう。俺はその傘を借りていくことにした。


しかし、手に取ろうとすると傘に張り紙が張ってある。

『アタシのだから持っていかないで』

丸文字で書いてあった。アタシのって言われても・・。
俺は少し戸惑ったが『今日だけ借りるだけだ』だと思い、
張り紙をはがして傘を手に取った。
その瞬間。少し離れた所から声が聞こえた。

「やっぱり。危なかった。見張ってなかったら大変なことになっていた。」

俺は驚いた。そして、あたりを見渡した。

ここからこの話を、二つの場合に分けて進める。

まず一つ目の場合は
『周りを見渡したら小さなオバサンが壁の向こうから顔を出して俺の方を見ていた場合』だ。

こんな夜遅くの誰もいない会社で、『小さいオバサン』が
(アタシの傘が盗まれるのではないか)と、ずっと隠れて見張っていたのだ。

俺は怯えた。

しかし、意を決して話しかけた。

「すみません。傘を忘れてしまったのでちょっと借りようかと・・。」

すると小さいおばさんはでかくなり、俺を見下ろして言った。

「あんたが!その傘で!雨をしのいで!濡れなかったとしても!持ってかれたアタシは!どうなる!」

一語一語はっきりくぎりながら『でかくなった小さなオバサン』はドスを利かせた。

本気で怖くなった俺は駅に向かって走り出した。
こんなことなら濡れたほうがマシだ。


二つ目の場合は
『周りを見渡したらきれいな女の人が壁の向こうから顔を出して俺の方を見た場合』だ。

俺はその女性を見つけ、少し嬉しくなった。
もしかしてこんな遅くまで俺が来るのを待っていたのだろうか。
俺はその女性に話しかけた。

「すみません。ちょうどいいところに傘があったので。良かったら一緒に帰りませんか?」

その女性は下を向いて照れながら「はい。」と答えた。
しかし、次の瞬間、その女性はみるみると『小さなオバサン』に変わり、
またそのすぐ後にでかくなった。
そして叫んだ。

「お前め!この薄汚れた根性でアタシの事を見たお前め!一緒に!帰ろうだと!馬鹿も休み休み死ね!死んでしまえ!」

俺はあまりの出来事に怖くなって逃げ出した。
こんなことなら雨に濡れたほうがマシだ。


びしょ濡れになりながら駅まで辿りついた俺は、
スーツをハンカチで拭きながら今見た恐ろしい出来事を思い出していた。

憂鬱な気分で家まで辿りつき、玄関のドアを開けると、妻が

「また、こんなスーツびしょ濡れにしちゃって!あんた馬鹿じゃないの!だから傘持ってけって言ったのに!」

と言った。

どうしようもなく惨めな気分になった俺は、
何も言わずスーツを脱ぎ、風呂に入ることにした。

シャワーを浴びて、何も考えず寝よう。目が覚めればまた明日だ。
面倒なことは寝て忘れてしまおう。
そう思い、風呂のドアを開けた瞬間、

『小さなオバサン』が風呂に入ろうと服を脱いでいた。
そして叫んだ。

「何!見てんだよ!この!薄汚れた!しみったれた!中坊みたいなリーマンがよ!ぶっ殺すぞ!ぶっ殺すぞ!」

俺は唖然として風呂のドアを閉め、寝室へ向かい、そのまま寝た。

面倒なことは寝て忘れてしまおう。
目が覚めればまた明日が来る。

投稿者 hospital : 2003年04月14日 09:14