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2003年04月28日

枝豆

朝から肘の調子が悪くて私はしょうがなく病院へ行くことにした。

病院までの道を歩いていると『おはよう。』と話しかけられた。
近所でも変人で有名なおじさんだ。
いつも植木ばかりいじってニヤニヤしているのだ。

私は適当におじぎをすると何も言わず足早に立ち去った。
変な人だ。


医者の診断は私の肘には枝豆が入っているということだった。


「残念ですが・・。」
「先生!そう言わずに・・取り除いてください。」
「いや。もちろん取り除いてあげたいですけど、多いいんですよ。最近。こっちも困ってるんですから。」
「でも!」
「取れることは取れるんです。でもまれにね・・。取り出した枝豆に実が入ってないことがあるんですよ。すると患者さんは大抵『なんか寂しい』とか『こんなことなら取るんじゃなかった』とか勝手なことを言うんですね。」
「私そんなこと言いませんから!」

先生は枝豆を取り出すことに乗り気ではなかったが、私も必死で食い下がった。

「嫌なんです!なんか・・なんか・・肘に変なものが入ってるその感覚が!」
「変なものって言いますけど枝豆ですから。」
「でも肘に入ってる枝豆なんて普通じゃないですし・・。」
「わかりました。仮に取るとしましょう。」
「はい。」
「でね。大抵取った枝豆の実は腐ってることが多いんですね。」
「はい。」
「そういう場合は大抵の患者さんが納得して帰られます。普通じゃないんだから腐ってて当たり前だと。」
「はい。」
「でもね。まれにですがまともな状態で出てくる場合があるんですよ。なんの問題もない食べることだって出来る枝豆がね。」
「私そんなこと気にしませんから。」
「いやいや。目の当たりにするとなかなかそうは言わないもんです。みんな綺麗な枝豆を見て『しっくりこない』だとか、ひどい人では『医療ミスだ!』なんて言い出しますからね。取った後にそんなこと言われても困るんですよ。」
「絶対に言いません。」
「・・・うーん。わかりました。取りましょう。」


こうして私の体の中にできた枝豆は無事に取り出された。

枝豆は腐っていた。


「記念に持ち帰りますか?」
「いりません!そんなもの。」
「そうですか。それではこちらで処分しておきます。」

先生はそう言うと枝豆を病院の裏庭にポイっと投げ捨てた。
その裏庭をよく見てみると枝豆のツタが病院の壁にびっしりと張り付いていた。
実の大きさは不揃いで色もピンクや紫、オレンジなど普通では考えられない色の枝豆だった。

「先生。これはなんですか?」
「枝豆です。」
「変な枝豆ですね。」
「変ですか?」
「変ですよ!」
「あれはあなたの枝豆ですよ。」

そう言って先生が指差した方向を見るとさっき先生が投げ捨てた私の体から出た枝豆が既に芽を出していた。
妙に太くどす黒い色をした芽がにょきにょきと動きながら成長していた。

「どうですか。変でしょう。」
「はい・・。」
「大丈夫。そういうもんですよ。意外にここになる枝豆は美味しいんですよ。見た目はまずいですが。はははは。」


家り道、浮かない顔で歩いているとまた『こんにちは。』と話しかけられた。

おじさんは今日も植木の手入れをしている。

私はなんだか朝のように適当におじきをして通りすぎる気になれず
『こんにちは。』とおじさんの方を見て丁寧に言ってみた。


おじさんは手を休めて顔を上げた。
そして、笑いながら『今日もいい天気ですね。』と言うとまた植木の手入れを始めた。

投稿者 hospital : 2003年04月28日 09:26