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2003年05月12日

最後のディスクレビュー9

ちょっとパリジェンヌに憧れただけ。
アタシは黄色いスニーカーに破れたジーンズにロックTを着て、
黒いベルベットの古着のジャケットを羽織ってケンジにメールした。

『お茶しない?』

返事は3秒で来た。精密に言えば20秒。

『しねえ。』

アタシにはその『しねえ。』が『死ね。』に見えたし、実際そうだったのかもしれないし。
アタシは涙がいっぱい出たかもしれないし、実家に帰りたいと思ったし。
悲しみにくれながらアタシはお気に入りのジーンズを強引にCDプレイヤーに
ぶっこもうとしている自分に気が付いて途方にくれた。

まあいいわ。

どうってことない。

そろそろディスクレビューに入るわね。

まず最初はピクシーズの『コンプリートBサイズ』
ピクシーズを聞くとアタシはギターを弾きたくなる。
学生時代に付き合っていた彼に教えてもらったギター。彼は今何してるかな。
1週間くらい前かな。ケンジが急に

「ギター教えてくれ。」

なんて言い出した。アタシは不器用なケンジにもできそうな簡単な3コードを教えた。
必死に必死に教えた。ケンジはその晩、黙々と練習してた。
次の日の朝。アタシのギターは真っ二つに折り畳んであった。
ありがとうケンジ。ギターは持ち運びにがさばるからね。コンパクトにしてくれたんだね。

やさしい。


お次はオアシスの『ザ・マスタープラン』

話が全然変わるんだけど、最近ドリアンを食べた。
匂いがすごいって聞いてたけどそうでもなくて、普通にまずかった。
でも、『今嫌いになったら一生嫌いなまんまなんだな。』ってその時思って必死に食べた。
そしたら、なんだか途中で

わかる。この味わかる。

って思ったの。今ではドリアンを見かけるとすぐに買ってしまうほど大好き。
ケンジとドリアンを重ね合わせて考えてみて、アタシの失敗はいつからだったのかと
考えようかと思ったけどやめた。

失敗なんてしていない。


最後はニルヴァーナの『インセスティサイド』
カートコバーンはこのアルバムに入ってる『スリヴァー』って曲が好きらしい。
ケンジはトイレのスリッパを履いたまま台所へ行って、タバコを吸うのが好きらしく、
昔、アタシが台所で料理を始めると必ず隣でタバコを吸っていた。
アタシは黙って料理をしてて、ケンジも黙ってタバコを吸ってた。
たまにケンジはタバコを吸いながら愚痴をこぼして、アタシはいつからかケンジを好きになった。

現在。ケンジは『灰皿どこ?』と言いながらアタシの二の腕にタバコを押し付けようとする。

気づいた人もいるかもしれないけど今回は『真正直に生きる人』に注目してみました。
シングルのB面や、正式なアルバムには収録されなかった未発表曲。
アタシはそういう曲の中にこの人達の心の余裕を感じる。
ケンジだって余裕があるときは、アタシをドライブに誘ってくれる。
本人は全然余裕じゃなくて苦しいのかもしれない。
それでも手を抜かずに最後まで誠実な人達。
アタシはこの人たちのB面集が大好きだから、
ケンジが帰ってくるかどうかもわからないのに必死に晩ご飯を作る。
毎晩、誰にも手をつけられることなく冷えていく晩ご飯たちに
アタシは『ごめんね。』と言って、ピクシーズを聴かせる。
全然関係ないけどゴジラ松井のほっぺたのニキビの跡を見てるとアタシは

無性にハンバーグが食べたくなる。


先日、久しぶりに帰ってきたケンジは元気がなかった。
アタシが台所で意味もなくギターを弾いていたら、ケンジも黙って台所へ来てタバコに火をつけた。
ポロポロと流れるアタシのお粗末なギターの音とケンジが吐き出すタバコの煙が
台所の天井で絡まって消えた。
その日の夜遅くアタシがお風呂に入りながら鼻歌を歌っていたら
台所から不器用なギターの音が聞こえた。
嬉しくて急いでお風呂から上がったアタシの目に映ったのは
3つに折り畳まれ、原形を微塵も感じさせない買ったばかりのアタシのギターだった。


そんなアタシの最後のディスクレビュー。
パイキーズの『さよなら顔面エタノール』

そんなバンドも歌もないけど、
『あったらいいね。』と大学に入学して付き合い始めてすぐのロック好きの男に言ったら
少し喜ぶ可能性ありね。


そんな感じかな。

それじゃあまたね。

投稿者 hospital : 2003年05月12日 09:33