« ますみふたたび | メイン | 最後のディスクレビュー9 »

2003年05月08日

頭上の花

今年俺の後輩となった山崎という新入社員がいる。
とてもまじめなやつで、先輩社員である俺にいつもくっついてくる。

ある日出社すると一番ノリの山崎が「おはようございます!」と俺に挨拶した。
「おはよう。はやいな」
ふと山崎を見ると頭の上に花が咲いていた。蓮華のような色をした可憐な花だ。
それほど物事に拘泥しない口なので、俺はそれを完全に無視して業務に入った。


昼休み、いつものように食堂への渡り廊下を歩いていると山崎が後から駆けてきた。
「先輩、自分も昼食ご一緒していいですか?」
ふと頭上を見ると、先ほどの花は朝よりもすこしピンとして見えた。
「ああ、かまわないよ」

入社したての山崎は見るもの全て新鮮だと言った。
俺にもその気持ちは分かる。山崎と同じ頃、俺はまさに希望を胸に精一杯生きていた。けれど社会というのはそんなに単純なものではない。この会社に足掛け7年勤めたが、人間の嫌な部分をたくさんみてきた。今では社会というものに昔ほどの純粋な希望は持っていない。そんな山崎の姿は俺にあの頃の気持ちを呼び起こした。

数日たったある朝。山崎の頭上の花はすこししおれてみえた。
先ほども述べたとおり、俺は物事に拘泥しない口なので、そのことには何も触れなかった。
山崎は、しかし以前と同じように一生懸命働いていた。
分からないことがあると必ず俺のところにきて、はきはきとした口調で教えを乞うた。

それからまた数日経った。
日に日に山崎の頭上の花は元気が無くなっていくように見えた。
俺は気にしないようにつとめたが、そうしようと思っても結局その花が目についた。
そしてその花を見るたびに、寂しい気持ちにとらわれるのだった。

残業を終え一人暮らしのアパートに帰り、服を脱いでそのままベッドに横たわった。
山崎の花のことが頭の隅っこにこびりついて離れない。
ウィスキーをあおり、そのまま寝てしまった。

夢を見た。

崖の中腹、ありえない場所に山崎の頭上にある花と同じ花が咲いていた。
俺はそれを下から見上げていた。
時間軸があってないような世界だった。先ほど雨が降っていたと思ったら、とつぜん快晴だったり、かと思うと突然の雪が一面を覆ったりした。
けれどその花は、どこから養分を得ているのだろう、おなじ様子で咲いていた。

次の日、出社すると山崎がいつもより元気そうな顔で「おはようございます」と俺に挨拶をした。
頭上を見ると、例の花がなくなっていた。
物事に拘泥しない性格なので、俺は何も言わなかった。

「今日もお昼ご一緒してもいいですか?」

午前中の雑務に追われている俺のところへきて、山崎はそう言った。

俺は「かまわないよ」と言った。

投稿者 hospital : 2003年05月08日 09:32