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2003年06月05日

シンデレラ

学芸会で僕のクラスはシンデレラの演劇をやることになった。なのに僕がもらった役は奥田瑛ニ役だった。
学級委員長が「普通のシンデレラはやだ。」と言い出したのがことの始まりだった。

僕の奥田瑛二役のほかにもロッキー役やテリー伊藤役まで割り振られた。そして、それよりも不思議なのはみんなとてもこの演劇にやる気があるということだった。普段これと言ってまとまりのあるクラスではないのに、この『変なシンデレラ』に関しては、クラスが一丸となって話が進んだ。

「あんたね。奥田瑛ニだからって役に頼っちゃだめよ。『変な奥田瑛ニ』を演じなさいよ。」

こんなことを言ってくる奴もいる。考えれば考えるほど不思議だった。

「ポルノ風にやるのも手だよね。皆月みたいにさ。」

シンデレラ役をもらったアキラが得意気に僕に言った。アキラがシンデレラ役というのも変な話だ。シンデレラ役は絶対男じゃなきゃいけないとクラス全員が言い切った。そして、中でもクラスで一番男くさいアキラがシンデレラ役に抜擢された。クラス全員の一致した意見だった。

『変なシンデレラ』をやるのは構わない。それ自体は納得できるけど、みんなのそのやる気が僕にはどうも馴染めなかった。


ついに学芸会の日がやってきた。僕は眠い目をこすりながら学校へ向かった。毎日、夜遅くまでみんなで練習してきた。休日だって関係なく馬鹿みたいに練習してきた。文句を言う人なんていない。それどころか「もっと変にできるはずだよ!がんばって!」だとか、「君の演技は変じゃない!それじゃあただの不気味だよ。」だとか真剣に『変さ』を追求した発言が続いた。

テリー伊藤役のれい子は、

「もっとロンぱれ。」

と学級委員長のトオルにきつく言われて泣いた。そりゃそんな理不尽なことで叱られれば涙も出ると思う。でも、れい子が泣いた理由は、もっとロンパれたのに『ロンパり貯め』をした自分が腹立たしいということだった。

『ロンパリ貯め』というのは、れい子に言わせるとロンパリの出し惜しみのことらしい。僕の疑問はますます深まった。


いよいよ演劇が始まった。『変なシンデレラ』はまず、変なピーコが森の中でシンデレラのファッションチェックをしているところから始まる。この案はシンデレラの姉役のあき子が寝ずに考えて思いついた案だ。このことで、クラス全員があき子を褒め称えた。

「天才だ。」とか「すごすぎて言葉が出ない。」など次々と賞賛の言葉が明子に浴びせられた。僕はどう考えてもすごいと思わなかった。でも、一人で冷めているわけにもいかず、みんなと一緒に拍手をした。

とにかく劇は進んでいった。つぶやきシロー役のタカシが、逸見正孝役のけい子にお金を借りるシーンでは客席も大いに沸いていた。

そして僕の出番が来た。僕の出るシーンは、シンデレラが東京湾で一人物思いにふけっている所から始まる。突然、海がガガガと裂け、そこから林家ペーがピーコのファッションチェックをしながら歩いてくる。その後ろから僕が演じる奥田瑛ニが全速力で走ってきて、偶然通りかかった羽賀ケンジ役の田中とぶつかってしまうという流れになっている。

たかがこれだけの演技のために僕は1ヶ月間も毎日毎日練習した。「ぶつかった時の顔が変じゃない。」だとか「痛そうな顔をするのは芸がない。」だとか「だからって動じない顔をするのはしっくりこない。」だとかありとあらゆる理不尽なダメ出しを受けた。

どういう経緯かは忘れたけど、結果、僕は『オノヨーコ風』に奥田瑛ニを演じることになっていた。これもクラス全員の一致した提案で、僕は意味がわからなかったけどみんなに従うことにした。

僕の演技はそつなく終わり、舞台では、王子がシンデレラのガラスのAir Max(クラス全員で徹夜して作った)を拾うシーンが演じられていた。残すはラストシーンのシンデレラが浅草の駄菓子屋で王子のことを思い出し、泣き崩れるシーンだけだ。


自分の出番を終えた人たちは舞台袖で、それぞれの演技を褒め称えたり、あそこはこうしたほうが良かったなどとぎれることなく言葉を掛け合っていた。


僕は最後まで馴染めず、そんな光景をはたから眺めていた。そんな僕にテリー伊藤役のれい子が話しかけてきた。

「どうしたの?元気ないじゃん。」
「なんか馴染めなくてさ。この雰囲気に。」
「・・・そっか。実は私もなんだ。ずっとみんなに合わせてやってきたけど。」
「え。そうなんだ。俺だけだと思ってた。」
「そんなことないよ。明子だってそう言ってたよ。」
「だって明子、始まりのシーン考えたり、すごいがんばってたじゃん。」
「そうなんだけど・・。」
「みんなそうだったんだ・・。」
「うん。明子ね。ホントはピーコじゃなくておすぎを出したかったんだって。だってピーコがファッションチェックって普通でしょ?」
「え?」
「アタシはね。考えすぎだって言ったの。だってシンデレラとピーコが出会ってる時点で変なわけだからおすぎまで行くとやり過ぎ感がぬぐえないっていうか。」
「・・・・。」
「あたしだって・・・ごめん。もっとロンパれたって言いたいんでしょ?わかってるよ。わかってるもん。でも・・ううん。言い訳はしない。アタシなりに最高のテリー伊藤を演じ切ったと思う。」
「・・・・そっか・・。」
「あ。明子が呼んでるから行くね。」
「う・うん。お疲れ。」
「お疲れさま。」

やっぱりみんなのやる気は本物だったようだ。僕はなんだか力が抜けてしまって誰ともしゃべる気がせず、学芸会が終わるとすぐに家に帰った。みんなはその後、教室でもう一回「変なシンデレラ」を演じたらしい。れい子が奥田瑛ニとテリー伊藤のニ役を演じたということだった。


次の日。学校へ行くともうだれも学芸会の話をしていなかった。それまでと同じようにまとまりのない無愛想なクラスに戻っていた。一体なんだったんだ。

ふと黒板を見ると大きく僕の名前が張り出されてある。

『各当者』と大きく銘打たれた横に大きく僕の名前が書いてあるのだ。

「あれどういうこと?」

尋ねても誰も返事をしない。どういうことだろう。1時間目の授業の時間になっても先生が来ない。僕がぼけっとしながら座っていると突然、教室のドアが開いて、黒いスーツを着た男が3人入ってきた。そして僕の席の前に立ち

「新BR法により君を連行する。」

と言い、僕の腕を両側からつかんで持ち上げた。僕は訳がわからず、されるがままに黒塗りのベンツに乗せられ、アイマスクとヘッドホンをつけられた。何か薬も飲まされたようで僕は知らない間に眠っていた。気がついた時には僕は窓もないコンクリートと鉄格子に囲まれた牢屋の中にいた。

テレビも新聞もあまり見ない僕は日本の新しい法律について何も知らなかったのだ。細かいことはよくわからない。ただ全国の中学校の中から厳密な抽選のもと僕たちのクラスが選ばれ、その中で僕がその新BR法により罰せられることになったということだけはわかった。


はっきりとわかっていることは

あと3時間したら、僕は合法的に殺されるということだけだ。

投稿者 hospital : 2003年06月05日 09:44