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2003年06月25日

パパはブーメラン

「お倒産。ブーメランごっこしよ。」

娘と二人で公園に来た。
わが娘は今年で6歳になるが小さいながらも私の会社が倒産したことを気にしているようだ。

「お倒産。ブーメランごっこしよ。」

娘と二人で公園に来た。
わが娘は今年で6歳になるが小さいながらも私の会社が倒産したことを気にしているようだ。

「ねえ。お倒産。アタシがお倒産を投げるから戻ってきて。」

娘は私の片腕をつかむとブンと投げるしぐさをする。
私は娘が望むとおり、走り、しばらくしてUターンして戻ってくる。
私を投げた後、娘はこんなことを言う。

「お倒産の会社が倒産しちゃったから、アタシはこれからは贅沢はできなくなるね。」

私は娘の目を見ることができない。私がUターンすると同時に娘はこう言う。

「戻ってこなくてもいいよ。」

ブーメランごっこをしようといったのはお前じゃないか。

「きっとけい子ちゃんに馬鹿にされる。今まで自慢してた分だけ。」

娘は私を憎んでいるのだ。

「お倒産がお父さんだった頃。」

娘は走って戻ってくる私に話しかける。

「私はろくに遊んでもらったことない。仕事だからって。いつもすっぽかされた。ママもそう言ってた。パパは家族より仕事が大事なんだって。」

私は泣きそうになる。でも泣くわけにはいかない。

「でもお父さんは最近お倒産になって、たくさん遊んでくれるようになった。」

返す言葉が見つからない。

「なんで?」

暇だからだ。

「なんで遊んでくれるの?」

仕事がないからだ。

「でもママは前より不機嫌になった。お倒産が遊んでくれるようになったのに。」

当然だ。

「ママ、最近お倒産が出かける時、『仕事見つけるまで戻ってこなくていいから。』っていうでしょ?」

うん。

「なんで?」

その言葉のとおりだ。

「あれもブーメランごっこなの?」

違う。現実だ。要するに金の話をしてるんだ。

「なんでブーメランごっこなのにママは不機嫌な顔をしてるの?」

私は娘の顔を見ることができない。
私はゆっくりと走りながら娘のところへ戻ってきた。
私をキャッチした娘は私の顔を見上げて言う。

「ママはいつ帰ってくるの?」

妻は3日前に家を出た。

「ブーメランごっこ?」

違う。

「新しい男ができたの?」

そうかもしれない。

「昨日、ママから電話が来たの。」

え?

「ママがね。私もママの所に来いって。」

ママはどこにいるんだ。

「横浜にいるって。昨日は。」

昨日は?

「でも明日は天国にいるからもう電話かけられないって。」

「私も来いって。」


そう言うと娘はポケットから錠剤を2粒取り出した。

「ママが出てく時くれたの。」

娘はまじめな顔をして私を見ている。

「お倒産も来ていいよって。ママが。」

そういうと娘は錠剤を一つ私に渡した。

「天国ならお倒産はパパになるんだって。パパが遊んでくれるんだって。」

娘は私の顔をじっと見つめている。
私は娘に言った。

「これはブーメランごっこじゃないぞ。もう戻ってこれないんだぞ。」

娘は何も言わずうなずいた。

「よしわかった。じゃあ一緒に飲もう。」
「うん。」

私は1,2,3と数えて錠剤を飲み込んだ。娘も同じようにした。
すぐに意識が朦朧としてきた。
私は娘の手を握ろうとした。すると娘はそれを拒んだ。
そして口からペッと錠剤を吐き出した。
私は公園に一人横たわった。
娘がそれを見下ろしている。
娘は言った。

「あ。ママだ。ママが戻ってきた。」

娘の隣には妻の影が見えた。
妻は娘を抱き寄せた。

「パパは戻ってくる?」

娘の問いかけに妻がボソリとつぶやいた。

「新しいパパがね。」

私は一人、天国へと向かい、二度と娘の前に戻ることはできなくなった。

投稿者 hospital : 2003年06月25日 09:54