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2003年07月09日

親父ギャグをやめないで

私は癌である。
癌細胞は日増しに私の体を蝕んでいる。
癌がガンガン進行している。
ぷぷぷぷ。なんちゃって。
だが、私はあきらめない。
なぜなら、私にはかわいい娘がいる。
凛子。私の唯一の肉親である。
妻は娘が幼い頃に死んだ。
父ひとり娘ひとりで今までやってきた。
せめてあいつの花嫁姿を見るまでは、死ぬわけにはいかない。
癌なんかに負けてられない。
ガンばるぞ。
ぷぷぷぷ。なんちゃって。

しかしまあ、こうして病院のベッドの上で寝ているだけでは退屈だ。
どれ、隣のベッドの若者とコミュニケーションではかってみるか。

「やあ、外はずいぶんいい天気みたいですね」
「あ。はい。そっすね」
「お名前なんていうんですか?」
「小川っす」
「下の名前は?」
「あ。小川雅彦っていいます」
「ほう。こりゃいい名前だ」
「え。そうっすかあ」
「わたしね、オとマとコがつくものが大好きなんだよ」
「え?」
「オで始まってマが入ってコで終わるものが、大好きなんだよ。ふふふ」
「いやあ。へへへ」
「好きだなあ、オスマントルコ。なんちゃって」
「あははは…」
「それで、普段お仕事は何をなさってるんです?」
「あ、ぼくフリーターっす」
「はいはい、フリーターね。あの犬や猫なんかの繁殖をする…ちがうか、そりゃブリーダーか。くくく」
「いやあ。あははは…」
「ところで、いったい、小川さんはどこが悪いんです」
「はい、どうも肝臓が」
「は、そいつは、いかんぞう!」
「ははは・・」
「で、具合のほうはいかがなんですか」
「いやあ、どうも、めっきり食欲がなくて・・」
「はっ。フリーターだけにショクがないと!ぷふふふふ。ぷはははは」
「そういうわけでは・・」
「ギャグだよギャグ。ぷふふふふ。くくくく。もう一度いうぞ、フリーターだけにショクがない。ぷはははは。どうだ、小川さん、おもしろいか。なあ。おじさんのギャグは面白いか。ぷふふふふ」
「は、はあ…」
「こういうの超うけるっていうんだろ。なあ。超うけるだろ。なあ、小川さん。超うけるだろ。そしてチョべリグだろ。もっというとイノヘッドだろ。チョベリグでイノヘッドでアムラーって、そういうことだろ。なあ、小川さん」
「いやあ・・・」

「こら、お父さん。隣の人に迷惑かけちゃだめでしょ」
知らぬ間に娘の凛子が来ていた。
担当医の近藤医師も一緒だ。
「やあ、凛子、コンちゃん」
「あー。お父さん、またそうやって勝手にひとのあだ名つくってる」
「いいんだよ。近藤先生なんだからコンちゃんでいいんだよ。なあ、コンちゃん」
「は、まあ…」
「お。なんだなんだ。不服そうだなあ。コンちゃんで呼ばれるのが嫌なのかおい。なあ。こら。近藤っ!」
「お父さんっ」
「おい近藤!文句があるなら向かってこいよ。こら、近藤!向かってこいよ。さあ、近藤!向かってこいよ。コンドーム買ってこいよ。なんちゃって。がははははは。ぷぷぷぷぷふー。な、小川さん、おじさん面白いだろ。どうだ。がははは。超いけてるだろ。イケメンだろ。イケメンでパツキンでキムタクだろ」
「お父さんっ!隣の人困ってるよ。ごめんなさいね、ほんとに。お父さん。今日から個室に移動だからねっ!」

(個室)
退屈だ。だれもわたしのことなんかかまってくれない。
戯れにエマージェンシーコールを押してみたくなる。
ブー。
さっそく看護婦がやってくる。
「どうしました!」
「いえ、なんでもないんですよ、看護婦さん。問題ナース。なんちゃって。ぷぷぷぷぷ」
「もう勘弁してくださいよ。これでもう5回目ですよ」
「いやあ、こう、ひとりで部屋に閉じ込められてるとどうにも退屈で。ほら、点滴やらなんやらで、身動きとれないでしょ。いわばがんじがらめなわけですよ、癌だけにがんじがらめ、ぷふふふ」
「もう。わたしも忙しいんですから、また今度にしてください」
「いやあ、すいません。お忙しいところつきあってもらっちゃって。ほんといつも感謝してます。感謝してます。病人だけに、カンジャしてます。なんちゃって。ぷぷぷぷ」
看護婦「・・・」
そこへ担当医のコンちゃんと凛子がやって来た。
凛子のやつ随分暗い顔をしてるな。どれ、明るいギャグでも一発ましてやっか。
「凛子、がちょ~ん」
「・・・・」
「凛子凛子、あっと驚く為五郎!」
「・・・・」
「どうした、凛子。おもしろくないか。クレイジーキャッツだぞ。がちょ~んだぞ。ほら、谷啓の。次にやったのはハナ肇だ。何年か前にぽっくり死んだハナ肇だ」
「・・・うわあああん」
「おい。どうした。泣くな。何があったんだ。お父さんに言ってみなさい。」
「お父さん死ぬのよ。もうすぐ死ぬの。うわああん」
「な、なんだって。ほんとか、コンちゃん。医者だけに、ドクタんと偏見で言ってるんじゃないのか?」
「いえ、厳密な検査の結果でして・・」
「なんだと。またおまえは口答えするんだな、近藤め。俺のことが嫌いなら、真正面から向かってこいよ、近藤!向かってこいよ。コンドーム買ってこ」
「それはもう聞きましたから」
「・・・・か、看護婦さん、おれを見てくれよ。このとおり元気でしょ。死ぬなんておかいじゃない。ほらほら。問題ナースでしょ?がはははは。」
「それもう6回目です」
「・・・」
死ぬのか、おれ。まだ高校生の娘を残して。
どれ、ここでひとつお約束のあれでもやっておくか。
「ガ~~~ン!」

2週間後
ああ。もうだめみたい。死んでしまうみたい。
傍らにいる凛子とコンちゃんの顔が歪んで見える。
なんだか眠くなってきた。もうだめだ。もうだめだ。
「お父さん、死んじゃやだ。お父さん」
「り、凛子、お父さんな、もうだめだ。こうしてしゃべるのもままならんよ。お父さんだけに、ママならんよ。ぷふー。くくく。ごほごほ」
「お父さん、しっかりして」
「みろ、凛子、お父さんの体、こんなにやせ細っちまった。死にゆくのに、シボウが減るとはこれいかに。ぷふ。ぐほほっ」
「お父さん、だめだよー。死んじゃだめだよー」
「やあ、どうしたことか、視界がさだまらず、凛子が10人に見えるよ。凛子が10人。凛子が十でリンジュウか。なんちゃって。ぷふー。ぐふぉぐふぉぐふぉ。」
「もうもう、お父さん、しっかりして」
「なあ、凛子、お父さん死んだらどこへいくと思う?」
「お父さん、そんなこと言わないで!」
「他界だけに高いところなんて答えはだめじゃよ。ぷぷぷぷ。ごほごほ」
「やだやだ、お父さん、死んじゃやだ!」
「なあ、お父さん、天国と地獄、どっちへいくかなあ」
「天国にきまってるよ、お父さん、男手一つで私を育ててくれたもん。いっぱい苦労してきたもん」
「そうかなあ。でも、お父さん、いつもつまらない親父ギャグばかり言ってみんなを困らせてきたよ。凛子にもたくさん迷惑かけた。すまなかったな」
「そんなことないよ、そんなことない。あたし、お父さんの親父ギャグ好きだよ。お父さん、死なないで。親父ギャグ、もっと聞かせてよ、おねがい」
「そ、それが、もうだめなんだ。もうだめなんだよ、凛子、すまない、お父さん、もう親父ギャグをいう元気もない。もうだめだ。すまな・・・」
「お父さん!お父さん!目を開けて!親父ギャグを言って!お父さん!」
ピー(心電図の止まる音)
「午前10時59分。ご臨終です」
「お父さああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
ガバッ。
「おい、凛子、10:59で天国だぞ。ぷぷぷぷ」

投稿者 hospital : 2003年07月09日 10:04