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2003年07月14日

たまごっち

たまごっちがブームになった頃、友人のタモツはとても貧乏で、あのころ俺達は高校生だった。
一斉に流行を追いかけるのが高校生だった俺達の特徴で、皆こぞってたまごっちを買ったのだけど、タモツの家は貧乏でたまごっちを買えない。それが分かっていたけれど、俺としては皆が買うたまごっちをやはり欲しかったし、タモツの気持ちを分かってやりながら俺はそれを買う。

教室での話題はもっぱらたまごっちの成長に関してだった。
もうほとんど覚えていないくらいの、印象に薄いできごとだったけれど、その頃の俺達にとってはひどく大切なことだったのだろう。今、だれがたまごっちを持っているというのか。
あのくらいの年齢の子供達には一様にみられる熱病のような心理だった。

タモツが輪の中に入っていた。
俺はどうすることもできず、周りのみんなと話題をあわせ、自分の、いまではどんなたまごっちだったか思い出せないくらいだが、それの特性をまるでなにかすごいことのように表明してみせた。
俺にはタモツを思いやる度量に欠けていたのだった。

それから数ヶ月たっただろうか。皆が一様にその話題に飽き始めたある日の朝、タモツはうれしそうに教室に入ってきて、俺のところへ来た。
「たまごっち、とうとう俺も買ったぞ」
上気した顔で俺にそう報告したのだった。けれど、それほど新鮮でもない話題にすこし周りは閉口してしまい、いささかズレたタモツを俺達は持て余さずにはいられなかった。
なんで若さとは寛容さに欠けるのだろうか。俺は曖昧な笑顔でそれに応えるだけで、たまごっちのことには触れてやることをしなかった。
周りも皆、同様の態度だったように思う。

あのころの俺はどうしてタモツをもう少し思いやってやれなかったのだろうか。
その日の昼食、色とりどりの弁当を皆が机の上に広げて楽しい食事をしている時、タモツは真っ白のご飯だけを机の上に広げて、その上に持参した生卵をかけ、一人寂しそうにそれを食べ始めたのだった。

今、タモツは何をしているのだろうか。
俺は仕事とささやかな趣味だけが生き甲斐の男になっている。久しぶりにタモツと話をしてみたいと思った。

投稿者 hospital : 2003年07月14日 10:24