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2003年07月24日

知り合いの男

「そう。その調子。その骨をつかんでぎゅっとひねって。」

さほど親しくもない友人に、『殺してくれ』と頼まれた。自分で死ぬのは嫌なので、殺して欲しいのだそうだ。そして、親しい友人に頼むと悲しくなるから、私くらいの適当な友人がちょうどいいのだという。

「えーとね。じゃあ次はどうしようかな。いきなり背骨いってもいいんだけど。うーん。とりあえず鼻骨いっとく?」

その友人はさも楽しそうに私に注文する。友人は壁に寄りかかり両手を広げ、目をつむり、顔を私の方へ向けた。私は言われた通り友人の顔を殴り、友人の鼻からは血があふれ出てきた。鼻骨も注文通り折れたはずだ。

「あ・・あが・・ありが・・ありがとう。」

友人は顔を手で押さえよろよろしながらお礼を言った。

「えっと・・つ・・次は・・」
「そろそろ背骨でいいか?頭蓋骨でもいい。もう耐えられないんだ。殺す方の身にもなってくれ。」
「・・・そうだね。」

友人は覚悟を決めたようで、ぺたんと床に座り込んだ。そしてバックをごそごそとあさり始め、小さなハンマーを取り出して私に手渡した。

「さあ。やってくれ。」

友人はそう言って下を向いた。私はハンマーを振りかぶって勢いよく振り落とした。友人の頭は真っ赤に染まって割れた。

頼まれたとはいえ、人を殺してしまった。私は少し呆然としながら血のついた両手を眺めていた。すると声が聞こえた。

「え・・・えっと・・・じゃあ・・次は・・・」

友人だ。頭も割れ、顔も原型をとどめていない。なのに友人はノソノソと動き、話し始めたのだ。

「つ・・次は・・背骨でもいいし・・・膝の皿とかどう?っていうか皿ってなんだ?・・膝の皿かよ・・・。皿・・・。プッ!ツボった!」

友人は爆笑し始めた。しかし、はたから見ている私にとって、友人の血みどろの笑い顔は恐怖以外の何物でもなかった。

「お・・おい。お前、大丈夫なのか?」

大丈夫ではない事はわかっていたが、私は友人に話しかけた。すると、友人は急に笑うのを止め、私の方を向いて真剣な顔をした。もちろん友人の顔はぐちゃぐちゃになっていて真剣も何もなかったがなんとなく真剣さを感じ取る事ができた。

「実は大丈夫じゃないんだ。」

言われなくてもそれは一目瞭然だった。ふと、私はこの友人がさっきのハンマーを手にしている事に気付いた。友人はのそりと起きあがり、私の方に近づいてきた。

そして大きくハンマーを振りかぶり思いきり私の前で振り落とした。私の頭も真っ二つに割れてしまった。血が吹き出した。すると、急に友人が雄弁に語り出した。

「手短に説明する。えー俺はもうすぐ死ぬ。それはお前もわかってると思う。でも前々から死ぬ時はドラマチックに死のうと決めていた。しかし、予想に反してあまりドラマチックにならなかった。だからお前にも死んでもらうことにした。」

意識が朦朧としてきた。

「えー別に心中のようなドラマチックさを求めてるわけではない。俺とお前が知り合い程度の仲ということには変わりはないのだから。だけど一人より二人のがドラマチックなんじゃないかと思い、こういう結果に至った。以上。」

友人は話し終わると満足げな顔をして息を引き取った。

私も後を追うように息を引き取った。

投稿者 hospital : 2003年07月24日 10:28