« 建材屋のお爺さん | メイン | 未来の僕 »

2003年08月21日

my own private ルーシー

ルーシーは図書館の司書をしていました。

ルーシーは痩せていて肩幅は顔の幅と一緒くらいでした。
ルーシーの視界は狭く、黒目は用事がある時しか動きません。
ルーシーの声は高く透き通っていながらも濁っています。歩幅は狭いです。
ルーシーのことを人に言うと『ああ。あの背の小さくてタコみたいな顔した人ね。』と言われます。


僕はそんなルーシーに恋をしたのです。
ルーシーという名前も僕が勝手に名付けただけで本当の名前はわかりません。
もちろん日本人です。

僕は図書館ヘ行き告白をしました。
あれは七月の終わり。嵐が吹き荒れる土曜日のことでした。

「ル・ル・・・ルーシー。」
「ほぴ?」(ルーシーは黒目をめったに動かさないので体ごと僕の方に向けました)
「好きです。僕とつ・つ・付き合ってください。」
「8月の第二週の月曜日までになります。」(ルーシーはまばたきをしました)
「え?」
「返却日を過ぎるとその日にち分だけ次の貸し出しが出来なくなります。」(ルーシーはじっと僕を見つめています)
「・・いや・・本の貸し出しじゃないです。僕は・・あなたと付き合いたいんです。」
「ほぴ。」(ルーシーはまたまばたきをしました)
「それはOKということですか?」
「ほぴ。」

こうして僕とルーシーは付き合うようになりました。
ルーシーは僕が誘えばどこへでも行きました。
まるで妖精のような(友達にこう言うと『妖精はもっとかわいいだろ。』と冷たく突き放されますが)ルーシーと一緒にいられる時間がまるで夢のようでした。

ルーシーと付き合い出して一週間が過ぎました。
ルーシーは僕の家に遊びに来ました。
夜になった僕達は眠りにつきました。
電気を消した後、僕はルーシーの布団に潜り込みました。

その時です。ルーシーは言いました。

「汚さないでください。」

いつもの高くて透き通ったまるで妖精のような(友達に言うと『妖精の声はもっとかわいいだろ』と冷たく突き放されますが)声でした。

こうして幸せな日々が過ぎて行きました。

2週間後、ルーシーの返却日が来ました。

ルーシーは何も言わず僕の家を出て行きました。


次の日。僕はまた図書館ヘ行きました。
でもルーシーはいません。
検索用のパソコンに『ルーシー』と入れて検索すると

『貸出中』

の文字が出ました。
落ち込んだ顔をして歩いていると友人に『どうした?』と聞かれ

「ルーシーが別の人に借りられちゃったんだ。」

と答えました。するとその友人は笑いながら

「誰も借りねえよ。」

と言いました。

次の週、図書館へ行くとルーシーがいました。
ルーシーは風邪をこじらせて1週間入院していたのだそうです。

僕はもう告白することが出来ませんでした。
だってルーシーは僕を見ても何も言わないのです。
まるで僕の事を覚えてもいないかのようでした。

それでも僕は毎日、図書館へ行きました。
ルーシーは毎日いました。

1年が経った頃、図書館のリニューアルが行われました。
古くなった本や利用の少ない本が回収されるのです。

『ご自由にお持ちください』と書かれた看板の横に大きな本棚が用意されました。

たくさんの古い本の間にルーシーが挟まって座っていました。

僕は黙って本の間からルーシーを引っ張りだし、手をつないで帰りました。
ルーシーはその時初めて黒目を動かして僕を見ました。

今でも僕はルーシーと暮らしています。

結婚式の日、ウエディングドレスを着たルーシーはまるで妖精のようでした。
従兄弟の三歳になる息子がルーシーを指差して
『タコみたいな顔してる。』と言って笑い従兄弟を困らせていました。

僕はルーシーが大好きです。

投稿者 hospital : 2003年08月21日 10:45