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2003年08月04日

ユニフォーム

ユニフォーム交換というのがある。
サッカーなどの試合の後、熱戦を繰り広げた両チームの選手達が互いのプレイを讃えあってユニフォームを交換するという、あれだ。

私の兄は、競泳では少し名の通った選手である。
ある日、「俺、ユニフォーム交換がしたい」と言い出した。最初は冗談だと思って相手にしていなかったのだが、先週大会があるというので応援に駆けつけた時、その事件は起こった。

脱いだのである。

もちろん観衆は唖然として、その挙動を見守った。その日兄は調子がよくなかったのだろうか、7位という成績でゴールし、プールサイドへあがった。いそいそと選手達が退場してゆく中、兄は、脱いだ。
不自然な沈黙が会場を包んだため他の選手達はあたりを見回したのだが、彼らが次の瞬間見つけたのは兄の水も滴る全裸姿であり、その男が自分達の方にまるで、「おつかれー。ナイスプレイ!」モードで歩み寄ってきたのだから選手達は目が点である。
兄はそのまま一位を勝ち取った選手のところへ歩み寄ると、「負けたぜ!次の大会では俺の分まで頑張ってくれよなっ」と言ったかどうかは遠くにいたため判然としないのだが、確かに兄は笑顔で一位の選手に右手に持った競泳水着いわゆる、「海パン」を差し出したのである。
「え?」と言ったかどうかは、遠くにいたため判然としないのだが、一位の選手は確かに立ち尽くしている。
そんな兄の暴挙を止めようにも、私はあまりのことに茫然自失しており、見守ることしかできなかった。
他の選手達は、「自分にまで災厄がかからないように」と思ったかどうかは分からないが、まるでそんな二人を賞賛するかのように彼らの周りを笑顔で囲んだ。

不自然なことが起きるとそれらは連鎖反応のようにして、一種異常な事態をもまるで、通常起こりうることのように人々に行動させてしまう時が往々にしてある。例えば、電車の中で婦女子が暴力団顔の人間に公然と痴漢されている時、まわりにいる血気盛んな人たち(私など)が皆一様に黙って見なかったことにしてしまうなどのようなことだ。
そして、今がそれだ。

一位の選手は、「はは・・・しかたねえなあ」顔になったかどうかは遠くにいたので判然としないが、確かに、脱いだ。

そして、ユニフォーム交換。

ここで感動的な場面にまさに「水をさす」ようで申し訳ないのだが、人が使ったあとの海パン、特にここでは水中使用後の海パンなのであるが、それを直後に履くというのはなかなかどうして勇気のいるものである。なにせ、濡れているのだから。さらに、直前まで履いていた人の体温がほのかに残っている状態でである(これが例えば意中の女性だったら話は180度違ってくるが)。

そんな二人の勇気に対するものなのか、はたまた善戦をたたえあう二人の姿に心を打たれたのかしらないが、とにかく沈黙の後会場は溢れんばかりの拍手喝さいに包まれたのである。
私は駆けていってそんな二人を祝福してやりたかったのもやまやまだが、兄弟だと思われたくないといったら嘘になるが、とにかく二人を遠くから見守った。よくやった。頭の中では海パンのことが9割、今夜のおかずのことが1割。よくやった。よくやった。

異常が通常の顔をして、大腕をふってまかり通ることが多々ある。今がそれであろう。
時たまみられるそんな場面に直面したのもあるが、私は興奮した頭で、「剣道の試合の後にだけはユニフォーム交換したくねえなあ」などと考えていたのであった。

投稿者 hospital : 2003年08月04日 10:33