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2003年08月11日

ミカちゃん

わたしが住む団地は、いつも光に溢れ涼しい風がそよいでいて、わたしは大好き。
道路を隔てた向かいに住むオサム君は大の仲良しで、いつも一緒に学校へ通います。
生まれてからずーっと一緒に遊んできたって、パパは私に教えてくれる。ママはオサム君とわたしが結婚するんだって、いつもわたし達が遊んでいる時にからかう。そんな時オサム君は顔をまっかにしてうつむいて、それから一日くらいはわたしと口を聞いてくれない。

ママの馬鹿。

昨日オサム君と手をつないで近くの川にザリガニをとりに行った。オサム君はザリガニとりの名人で、タコ糸をつかって器用にザリガニをとってはわたしのところに来て、「ほら、アメリカザリガニ」と言う。
アメリカザリガニの殻の色はオサム君が照れたときにみせる真っ赤な顔と同じ色。だから、わたしはザリガニを見て「くくくくっ」と笑ってしまう。

「どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
「ねえ」
「なあに?」
「大きくなったら、僕、バスの運転手さんになるんだっ」
「うんっ」

おうちに帰るとママが家の前で近所のおばさんたちとお話をしていた。わたしとオサム君に気づくとママは、「あら、オサムちゃんと遊んでいたの?」と話しかけてきた。「うん。オサム君がたくさんザリガニとってくれたよ」とわたし。「でかした!はっはははははーーー」とママは喜んだ。「今夜のおかずはザリガニだぬあああ!」と聞きつけたパパが口から炎を吐きだした。

そして優雅な夕食がはじまった。至福のひと時。オサム君がとってきたアメリカザリガニは強火でボイルされ、食卓にはさみを誇らしげに突きたてて並ぶ。「アーメン」と、パパ。そしていっせいにわたし達はアメリカザリガニにかぶりついた。
ガキッ、グキキッ、ミシミシミシ。オサム君の前歯が真っ赤なザリガニに突き刺さる。健啖家で知られるオサム君ならではの豪快な食べ方だわ。
そしてわたしはザリガニを右手に持ち、思い切り握り締めた。これぞまさしく『握りザリガニ』。ザリガニの尖った部分で手を傷つけてしまったのかしら、わたしの握り締められた右手からはポタポタと緑色の血が滴りおちた。パパとママはそんなわたしの様子をみて、「こらこら」と微笑してたしなめる。だからわたしは右手にもっと力をいれた。ミシミシミシ。
隣でオサム君は、「手からアメリカザリガニのエキスを吸収しているんだね」と顔を真っ赤にしてわたしに話しかけた。だから、わたしは大きな声で、「うんっ!」と返事をする。右手でつぶされていたアメリカザリガニはもう跡形も残っていない。するとわたし達の周りを囲んでいた奴隷達がいっせいに、「ミカさま~~!わたしたちのミカさま~~!」と悪魔の踊りを踊りながらはやし立てるのだ。

わたしはたたんでいた羽を広げ、口から灼熱の炎を吐き出しながら空に向かって飛び立った。バサバサバサ。バッサバッサバッサ。「ミカ様~~~!」。地上からは奴隷達の叫び声が聞こえる。大きな羽を左右に広げわたしはわたしが支配するこの団地の様子を見下ろした。村人たちはみな幸せそうに暮らしているようだ。よかろう。今日は気分がとてもよい。一人いけにえをとるとしようか。わたしは鋭くとがった角を真下に向け、「ひゃっひゃひゃひゃひゃあああああ」と笑いながらまっさかさまに急降下して、通学途中の小学生くらいの男の子の胸の辺りを角で猛烈に突きさした。「ぐはっ・・・ああぁぁ・・・・」。がっくりとうなだれた男の子の心臓を鋭く尖った爪でえぐりだし、「ぐはっはははははははああああ」と大きな声を立てて笑ったの。そしたら、もうよくわからない化け物が隣で、「ほどほどにしろよ、ミカ」と微笑んでいた。パパだったわ。火を吐いていた。うしろでママの頭は8つにさけてて、まるで化け物だったの。そしてわたしは男の子の心臓を飲み込んだの。わたし達は人間の血を飲まないと生きていけない悲しい運命なの・・・。

そんな光と風の団地に住むわたしは、これからピアノのレッスンがあるの。キヨ子先生は怒ると角をだすから、予習をしなくっちゃ。でないと、わたし、キヨ子先生を殺してしまうかもしれないもの。

投稿者 hospital : 2003年08月11日 10:37