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2003年08月28日

レインボーブリッジ

「どうしたの?こんなとこで。そんな格好してたら風邪ひくよ。」

この優しさがつらい。こんなとこで何してるか?わからないの?

「あんたの家の前でブリッジしてたんじゃないの!あんたに媚び売ってんのよ!わからないの!」
「ごめん。」

謝らないで欲しかった。
アタシはあいかわらず水溜りの上でブリッジしたままの状態でアイツを見つめている。
何を言われたってみじめになるだけだった。


はがゆくてたまらない。
あいつに会ったのは一年前。アタシはあいつに恋をした。
あいつはハンサムでアタシはブス。致命的なハンディキャップ。
あいつは優しくて大人だからアタシを冷たくあしらったりしない。
話しかければ優しく相手をしてくれる。でもあいつから話しかけてくれることはない。

アタシは無理をする。

大雨の日、あいつのアパートの前で待ち伏せしてた。傘もささずに。
あいつが部屋から出てきた瞬間。アタシは大きな水溜りの真上でブリッジをした。
そして

「レインボーブリッジ。」

と言ってみた。そう。アタシはボソッとそう言ったの。
そしたらあいつは言った。明るい笑顔を浮かべて。

「どうしたの?こんなとこで。そんな格好してたら風邪ひくよ。」


アタシが怒鳴ったからあいつは黙って立ち尽くした。
あいつがアタシの前で真剣な顔したのはこれが初めて。もうあいつはアタシと会ってもくれないだろう。
でも最後に真剣な顔してくれて良かった。同じ人間として接してもらえて良かった。
あいつは言った。

「俺もブリッジするよ。」

「同情ならやめてよ。」
「違う。したいんだ。」

あいつはアタシの隣でブリッジをした。アタシ達は大雨の中二人並んでブリッジをした。
30歳くらいの会社帰りのカップルがそんなアタシ達を見て笑った。
アタシはいい。慣れてるし。でもあいつはすこし悔しそうな顔をしてた。
でもやめない。大雨がアタシ達の顔に容赦なく叩きつける。

「雨。だな。」
「そう。雨よ。」
「お前。俺のこと好きなんだろ。」
「そうよ。好きよ。」
「大好きなんだろ。」
「そうよ。大好きよ。」
「俺はな。普通だ。お前のこと普通の友達以上になんとも思ったことない。」
「知ってたわ。」
「そうか。」

アタシは妙に誇らしげな気分だった。あいつはアタシがやめるまでブリッジをやめないだろう。
そんな自信があった。アタシのことを愛していない一人のハンサムの男。

「あんたハンサムよ。」
「知ってる。」
「生意気ね。」
「そうさ。お前ブスだな。」
「知ってるわ。」
「謙虚だな。」
「謙虚じゃないわ。ブスなのよ。」

雨は容赦なくアタシ達の顔を叩きつける。アタシは大きな声で

「レインボーブリッジ!」

と叫んだ。あいつも負けじと叫んだ。
あたし達はそのまま朝までブリッジをしたまま叫び続けた。

朝になってあいつの携帯に電話がかかってきた。彼女の幸子からだ。

「おお。おはよう。今?あ、うん。まあ。ぼけっとしてたよ。ああ。覚えてるよ。シャワー浴びたら迎えに行く。」

そう言ってあいつは電話を切った。

そこでようやくあいつはブリッジをやめて地面に寝転んだ。アタシもあいつの横に寝転んだ。


アタシはあいつの手を強く握った。あいつも強くあたしの手を握り返した。

久しぶりに晴れ渡った空にはうすい虹がかかっていて、アタシ達はしばらく何も言わずそんな空を見上げていた。

投稿者 hospital : 2003年08月28日 10:50