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2003年09月04日

きれいな部屋

私は黙って机の前に座っている。
机の上には散らかしっぱなしの鉛筆やらリモコンやら本やらCDやらタバコやら
とにかく色んな物が散らばっている。
私はうつろな目でそれらを見つめている。

机の上だけではない。
それ以外にも身の周りの面倒なこと
電話料金の支払いや友達からきたメールへの返事、
そんな簡単なことからもっと大変なことまで私はすべてを出しっぱなしで放り投げる。

私は美人な上に弱々しい目つきをしているので男達は嬉しそうに寄ってきて私を誘惑する。
私もすぐに誘惑される。
簡単に関係を持つが、それをいつまでも切る事ができない。
男の数は自分でも知らない。携帯は毎日ひっきりなしに鳴っている。
でも解約する事もできない。
たまに電話に出るが相手の顔を思い出す事もない。
レンタルビデオも借りるだけで返さない。延滞料金だけでもういくらだろうか。
部屋の隅に三年前に借りた『タイタニック』が転がっている。

お風呂にお湯をためるのが好きで最後に蛇口をひねったのは三年前。
お湯はあっという間に風呂タブを溢れ出し私の部屋すべてを水浸しにしてしまった。
三年間だ。
私の部屋は三年間ずっと水浸しだった。


二の腕に妙な『吹き出物』ができたのはこの頃だった。
とくに特徴もない目立たないものだったがその吹き出物は口をきいた。
しゃべるのだ。当たり前の事ばかり。

「風呂のお湯止めろよ」

最初の言葉はそれだった。

「そんなことわかってる」
「じゃあ止めろよ」

吹き出物は余計な事は話さない。とにかく私が言われたくないことばかり
一日に一つずつ話すのだ。

「レンタルビデオ返せよ」
「わかってるってば」
「じゃあ返せよ」

返すまで吹き出物は話し続けるから私はしょうがなくレンタルビデオを返した。
水道料金の支払いやレンタルビデオの返却など身の周りの細かいゴタゴタをすますと
吹き出物は男の処理に目をつけた。

「アキオからメール着てただろ?返事返せよ。そして縁を切れ」
「わかってるってば。いっぺんに言わないでよ」

「電話が鳴ってるぞ。サトルからだ。出ろ。そして『え。誰?』と言え」
「わかったからその命令口調やめてよ」

「なんだその髪型は変だぞ」
「なによ。そんな事にまで口出さないでよ」

男の整理が済むと吹き出物は私の身なりにまで口を出すようになった。

「なんだその靴は。『靴はセクシーに』と頭に刻み込め」

「なんだその化粧は。ラメ入りの化粧を頬に塗れ」
「意味わからないこと言わないで」

「羊皮が来るぞ」
「どこによ」

吹き出物は日に日に饒舌になっていった。

ある日、吹き出物は言った。

「明日で俺は消える」
「え?」

その晩、それ以上吹き出物は何も話さなかった。
私はなんとなく気になってしまいその晩よく眠ることができなかった。

「消えるってどういうことよ」

話しかけても吹き出物は何も答えない。

次の日の夜。

「就職しろ。あと親に電話しろ」

吹き出物はそう言った。

私は黙って受話器を持ち親に電話をかけた。

「手、震えてるぞ」

吹き出物は無愛想にそう言った。

久しぶりに話した母親は優しかった。


電話が終わる頃には吹き出物は消えていて

部屋の中には吹き出物一つない綺麗な身になった私だけが残っていた。

投稿者 hospital : 2003年09月04日 10:52