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2003年09月25日

終電車

あぁ 今日も失敗した。

俺は落ち込みながら終電車に乗った。


俺は吊革を両手でつかみそこにオデコを押し当てて突っ立っていた。
眠気がひどく、俺はだんだんとそこに体重をかけていった。
足は床についているが吊革に両手とオデコを押し当ててぶら下がるような姿勢で俺は立っていた。

椅子に座っている人も立っている人も、大抵の場合はみんな疲れきって寝ている。

俺のように吊革に持たれかかっている人も多い。
みんななんとか立ったまま寝ようとしているのだ。
俺はそのままの姿勢で窓に目をやった。
外は暗くて何も見えない。変わりに窓には車内の様子が映っている。
俺と似たような顔をして吊革にぶら下がっているサラリーマンや、必死に何かの書類を眺めているOLの姿も見えた。
俺は窓に映るたくさんの人の顔を眺めていた。

ふと一つおかしな影が見えた。

電車の揺れに合わせてフラリフラリと揺れている男がいるのだ。
もちろん俺もそうだが、その男の揺れ方は普通の人の揺れ方とは違った。
フラリフラリと風に揺れるように軽快に揺れているのだ。

俺は目を凝らした。

スーツを着ている。目は閉じている。
立ったまま寝ているのだ。
吊革はつかんでいない。いや、そうではない。

吊革が彼の首にはまっている。

吊革が首輪のように彼の首にはまっているのだ。
足は床についているのだろうか。いや、あの揺れ方からして足は床から離れているはずだ。

首吊りだ。

男はブラリブラリと揺れている。生きているだろうか。
隣の男は何も気にせず突っ立っている。
どういうことだ。電車の中で平然と人が首を吊っている。
大体、あの小さなプラスチックの小さな輪にどうやって首をはめ込んだのだろう。
頭があの小さな輪を通り抜けるはずがない。

きっと見間違いだ。俺はそう思うことにした。

実際にこの目で見たわけではない。窓に映った影を見ただけだ。
きっと俺も疲れているのだ。俺はそう思うことにした。
そして、再び吊革におでこを押しつけた。
その瞬間、

スポン

という音がした。一瞬視界が真っ暗になったがすぐに元に戻った。
さっきと何か様子が違う気がしたが何の問題もない。
しかし、ふと窓ガラスに目をやるとそこには

さっきの男と同じように吊革が首にすっぽりはまった俺の姿が映っていた。

慌てて首の辺りをさすってみるとプラスチックの輪がきっちり首にはまっている。
いつも手でつかんでいるあのプラスチックの吊革の輪っかが。

電車はどんどん進んで行く。下り電車だ。辺りはどんどん暗くなる。
降りる駅も過ぎてしまった。降りるにも降りれないのだ。

電車は終点についた。

あれから俺は3回 『スポン』 という音を聞いた。俺以外にも新たに3人の人間が首を吊られたらしい。

「終点ですよ。降りてください」

そう言って車掌が見まわりに来た。
そんなことは俺も分かっていたが降りるに降りれないのだ。

窓ガラスに目をやると最初に俺が見た首吊りの男が見えた。
俺と彼との間の距離は3m程しかない。
彼も目を覚ましていた。生きていたのだ。
彼も俺と同じように事体が飲み込めていないようでキョロキョロと辺りを見渡している。
俺に気づき、何かを話しかけようとひたすら俺のほうを見ているのはわかっていたが
俺はそいつの方を見ることが出来なかった。

窓ガラスにはそいつの上半身は映っているが下半身は映っていないのだ。
彼の足元には血にまみれた彼の下半身が横たわっている。
そして彼の後ろにはさっきの車掌が大きな釜を持って立っているのだ。

吊革にぶら下がった彼はようやく自分の下半身が切断されていることに気づいた。
そして振り帰った瞬間、彼は頭のてっぺんから切り刻まれてしまった。

そして車掌はゆっくりと俺のほうへ歩いてきて大きく釜を振り上げると


一気に振り下ろした。

俺の意識もそこで途切れてしまった。

投稿者 hospital : 2003年09月25日 11:02