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2003年10月23日

欠陥住宅

寒い。この家は底冷えがする。
ふと見渡してみると柱がなかったり、日に日に柱が傾いていっているような気もする。
ああ。また台所のほうで音がした。
毎日少しずつ、トイレや風呂場など水まわりの床が腐り、抜けていく。

どうも私の30年の人生はどうしようもないものだった。
何かに熱中したこともなく、何か言いたいわけでもなく、人の後を追うでもない。
まるでコンニャクのような人生だったように思う。

現在の妻と結婚したのは27歳の時で妻も私と同じような人生を送ってきたらしい。
特にそのことについて話したわけではないが、私達はお互いのそんなところをよく知っている。
妻は料理が好きだ。
好きではないのかもしれないが朝食も夕食も毎日休まず作ってくれる。

そうだ。特に問題はない。

そんな私達夫婦がなぜ家を建てようなどと思ったのか。
妻の両親が東京の郊外に土地を持っていてそれを私達に譲ってくれたところから話は進み始めた。
妻の母親は妻とは違いハキハキと自分の言いたいことを話すとても現実的な人だ。

「だからね。土地あげたんだし、あんた達だって家ぐらい持つべきよ」

彼女のそんな意見を私達夫婦はなんとなく受け入れた。
資金は私の両親に援助してもらい、それと私達の蓄えを合わせ小さな家なら建てられるくらいのお金は集まった。

そんな頃ちょうど私達夫婦は森本と出合った。
スーパーのチラシの片隅に

「家とか建てますけど。   森本」

という一言が載せられていて、脇に電話番号も載せられていた。
特に信用したわけでもないがそこへ電話をかけてみると
若い女性が出た。

「はい。森本哲太の事務所です。え。別に特に専門分野はないです。だからって便利屋ではないって森本は常々言っておりますが。」

私達はスーパーのチラシを見たことと安く家を建ててもらいたいということを伝えた。
次の日、森本哲太は秘書をつれて私達の家にやってきた。

「建てられませんよー。とても家と呼べるようなものは。いや建てますよ。建てますけどもー。とても住めるようなものは建てられませんよ。」

彼はそう言った。
秘書の若い女は妻の出したお菓子を食べながらウンウンと横でうなづいている。

そんな調子で私達の家は建てられ始めた。
森本哲太と秘書は毎日朝からやってきて夜遅くまで二人でキャアキャア言いながら家を作りつづけた。
妻はそんな彼らにお昼ご飯と夜ご飯を毎日用意し、二人と一緒に楽しそうに話していた。
そんな日が1ヶ月ほど続き、家は完成した。

完成すると森本哲太は万面の笑みで家を眺めながら言った。

「いやーできました。できちゃいましたー」

秘書は頭よりも二まわりもでかいヘルメットを頭の上でグリングリンと回しながらそんな哲太を眺めていた。


住み始めて3か月になるが最初に言ったように家は早くも壊れ始めている。

「ここに柱が一本立ってれば違ったでしょうにね」

妻は、2階の床がたわんで1階の寝室がもう入れないほど押しつぶされているのを見てそう言った。
柱と呼んでいいのかわからない、コンニャクのような柔らかい棒状のものが家のあちこちに立てられていた。
剥がれ落ちてきた天井を覗いてみるとミカンやらリンゴやら果物が置いてある。
備え付けの靴箱をのぞくとチュッパチャップスがあふれんばかりに入っている。
風呂タブには真っ赤なゼリー状の液体がためられていて、私達はしょうがなく毎日シャワーだけで済ましている。

そして、どういうわけか二階には森本哲太とその秘書が住んでいて
毎日夜遅くまでキャっキャキャっキャと言いながら何やら楽しそうにしている。
日に日に天井はたわんできて、天井に大きな隙間ができると、二階の様子が声だけでなく直接見えるようになった。

しかしそこには誰もいなかった。

声はいつものように聞こえてきたがそこには誰もいない。
トランプのカードがまるで人が持っているかのように宙に浮いている。
カードが移動するたびに二人の笑い声が聞こえる。
妻は驚いて口を押さえて私のほうを向いた。
でもしばらくすると穏やかに笑いながら台所へ行ってしまった。

1年前、この近所で森本哲太という男とその愛人が借金を苦に首を吊ったいう話を聞いたのは
それから数日後のことだった。

投稿者 hospital : 2003年10月23日 11:15