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2003年11月04日

必殺技2

聡子は最近裏技に凝っていて、それはきっとテレビ番組の影響なのだろう。裏技を発明すると、自信なさそうに報告するあたりが、とても可愛くいじらしくもある。

「裏技・・・考えたんだけど・・」

私のところへ来ると決まって上目遣いで、はにかむ。そんな時の聡子が可愛くてしかたがない。そして、私は黙ってその裏技とやらを聡子に報告させてやるのだった。

「ハサミでTシャツを切り刻むとすごく困る裏技なんだけど・・・」


自信なさそうに、私に裏技を報告する。
こんな時見せる聡子の表情は本当に可愛い。生活の中でのちょっとした工夫で得られる、「裏技」という幸福。私はそんなちっぽけでいて、けれど家庭的な喜びを求める聡子の性格を本当に愛している。
一体それはどんな裏技なんだろう、興味をしめしてやると、聡子はうれしそうにはさみを取り出し、箪笥にある私のTシャツコレクション(ロックバンドのものやプレミアのついたものなど)を片端から切り刻んでいった。
この裏技はこれだけに留まらず、応用もきくのだということを聡子は主張したいのだろうか、Tシャツ全てを切り刻んだ後、こちらの表情を窺いつつ、照れたような表情を見せた。
怪訝な顔を私が示すと、聡子は本当に応用できるのだというように、その他の衣類も持参のハサミで切り刻んでいく。アルマーニのスーツを切り刻もうという直前で、ふとためらいを見せたが、ひとり首を振り自分を納得させると、決意したように上等の衣類も含めた全てを滅多切りにした。
裏技を終えたあと聡子はこちらのほうを、おどおどした様子で振り返った。

「・・・どう?」

こんな時私は聡子のいじらしさ、切実さに心の底から感服する。
「ああ、すごく困る裏技だな」と、返事をすると、「すごくうれしい・・・」と俯いて喜びをかみしめるのだ。
ここに至ると私は聡子を幸せにするためなら死んでもいいくらいに、恋に恋する気分になり、いじらしい聡子を思い切り抱きしめてやりたい気持ちをどうにかこうにか抑えることに手一杯で、殆ど自分を見失っている。こんな時は奥手な自分が最も呪わしく感じられる瞬間だ。

「実は・・・他にも裏技考えたんだけど・・・」

ちょっと調子にのりすぎかな?実のところ聡子はその裏技に自信を持っている。けれど、そんな自信を私に悟られるのは恥ずかしい。そんな聡子の気持ちが手に取るようにわかって、私は、「さあ、次はどんな裏技だい?」と気さくに応じる。
私の快い返事を得ると、さながら水を得た魚のように嬉々とした表情をうかべる。しかし思わず好きな人の前で率直な表情を見せてしまったことへの自責からか、元通り自信のなさそうな表情に戻り、震える声を振り絞って、新しい裏技を公表するのだ。

「洗濯機にガソリンを満たして洗濯をすると危ない裏技なんだけど・・・・」

震える声。俯きぎみの表情。もじもじと体をくねらせる仕種。そんな全てがたまらなく可愛い。「はは、どんな裏技だろうな?」と興味を示してやると、本当に花が咲いたような可憐な表情で私をじっと見つめるのだ。
「さあ、教えてくれ」私の返事を聞くとすぐに聡子は洗濯機のある部屋に私を連れて行き、ガソリンをなみなみと洗濯機に満たした。「あぶないから・・・」と私のことを気遣って、スイッチを押してからすぐに隣室へ避難するように促す。
するとすぐに、大爆音が洗濯機のある部屋から聞こえた。
慌てて部屋に入ってみると、壁は粉々に粉砕されてあり、洗濯機などは原型をとどめていないといったありさまだ。ここに人が居たら、まず生きてはいないだろうことが手に取るように予測される状態を二人で目撃したあと、聡子は照れながら自信なさげに「・・・どう?」と聞くのだった。

いじらしい聡子の様子に打たれ、「ああ、最高に危ないな」と応えてやると、「ほんと?うれしいっ」とそれまでの自分の地道な裏技探しがその一言で報われたように、表情に赤みがさす。この表情は私の唯一の宝物でもある。

「パソコンを壊されるとすごく悔しい裏技なんだけど・・・・」

裏技が評価されたことに自信をもったのか、私の表情を窺いながらも自分の持つありったけの裏技を私に報告したいのだろう。パソコンを可憐な様子で持ち上げ床にたたきつけた後、ガソリンで燃やすという入念さで裏技を終えたあと、「悔しい?」と私の反応を窺うのだった。

聡子が可愛くてしかたない。私は聡子のいじらしい裏技を見てやることのできる幸福を大切にしながら、パソコンを壊された悔しさをかみ締めるのだった。

すると、この間のホスト風の男が突然上がりこんできた。

「彼氏とショッピングへ行くのでお金がほしい裏技なんだけど・・・」

私は財布から1万円札を取り出しながら、自分の幸福は一体いつまで続くのだろうと、不安な気持ちを抱えているのだった。
幸せすぎて、怖い。そんな気持ちがよく分かるようだった。

投稿者 hospital : 2003年11月04日 11:16