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2003年11月07日

ミルキーナイト

このレストランに勤め初めて3ヶ月になる。
高級レストランと言ってもいいような上品なレストランだ。

ウエイトレスの仕事は退屈だ。
何か出会いがあるのではとそんなことも考えていたがそんなことはまるでない。
お客さんは私を人として見ない。

勤め始めてすぐの頃こんな客が来た。


「なあ。俺のどこがおかしい」

席につくなり男はせっぱ詰まった表情をして女にそう言った。

「すべて」

女は煙草に火をつけながら吐き捨てるように言った。

「なんでそんなになっちまったんだ」
「なんでだろ。自分でもわからない」
「考えろよ。自分のことだろ」
「たぶんアンタのそういう所が嫌なのよ。体を乗り出して『わかるだろ』『考えろよ』って。なんか・」
「なんだよ」

「気持ち悪いのよ」

「お前・」
「怒らないで」

女は表情を少しも変えず、男だけがひたすら感情をムキ出しにしていた。

「昔はお前もっと違っただろ」
「当然でしょ。アナタだって同じよ」
「そんなことない。俺はずっとこのままだ」
「そうね」
「じゃあなんでだよ」
「わからない。飽きたのかも」

男は顔を真っ赤にしていた。
そんな男に目もくれず女は軽く手を上げて私を呼んだ。
女はテキパキと注文を私に伝えた。男はうなだれていた。

「なんでだよ」
「なにがよ」
「なんで飽きたんだよ」
「飽きるのに理由なんてないわ」
「あるはずだ。言ってくれ」
「やめてよ。いい年して」

私が料理を運びに彼らのテーブルに行った頃には彼らはもう会話をしていなかった。
男はうつむいたままで女は平然と煙草を吸っていた。
私はいつも通りの表情で料理をテーブルに置いて立ち去ろうとした。

「一緒に食べてくれよ」

男がそう言った。

私は立ち止まって振り返った。
女は驚いた顔をして男の顔を見た。そしてその後、私の顔をまじまじと眺めた。

お客はちょうど彼らしかいない。

「はい」

私は彼らのテーブルの余った席に座った。
女は不機嫌な顔をして私と男の顔を交互に眺めている。
でも、急に穏やかな顔になって私に話しかけてきた。

「ごめんなさいね。急に」
「いえ。いいんです。今仕事もありませんし」
「変なのよ。この人」
「そうですか」

女と私はそう言って男を眺めた。

男は険しい顔をして黙々と食べ続けている。

「聞いてたでしょ?さっきの話」
「少しですけど」

男は急に顔を上げて言った。

「別れるのか。俺達」

「ほらね。いつもこうなのよ。ムードも何もないの」
「いいじゃないですか。正直で」
「馬鹿正直っていうか馬鹿なのよ」
「そんな」

ガタンという音がして突然男が立ちあがった。

「じゃあな」

男はそう言って店を出て行ってしまった。

女はため息を一つついて

「食べましょ」

と言った。

女はよくしゃべった。楽しそうに仕事場の嫌な上司の話や好きな映画の話など。
彼女の落ちついた笑顔に連れられて私も楽しい気分になり、一緒にワインを飲み楽しく話をした。

1時間ほどして女は席を立った。

そして支払いを済ますと

「楽しかったわ」

と言って店を出ていった。


それから3ヶ月ほどたった今日。女は別の男を連れてやってきた。

男は落ちついた態度で女の話を聞いていた。

「ちょっと。私の話ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ」
「うそよ。いつもつまらなそうな顔して」
「ちゃんと聞いてるって」

料理を運びに行った時、女と目が合ったが彼女は私を覚えてもいないかのように振る舞った。
私はいつも通り料理をテーブルに並べ丁寧にお辞儀をしてテーブルから立ち去った。

今日は店が混んでいて彼女達の話は遠くからでは聞こえない。
私は興味深く彼女達のテーブルを眺めていたが、終始女は不機嫌な顔をしていて男は落ちついた顔をしていた。

そうこうしているうちに厨房から『5番テーブル!』と声がかかり、私はまた料理を取りに厨房へ戻った。

私が料理を持って戻ってくると店内は騒然としていた。
ダイナマイトを体中に巻きつけた一人の男がわめき散らしているのだ。

その男は3ヶ月前、私もテーブルを共にしたあの男だった。

男はライターをポケットから取り出し、頭に巻きつけた導火線に火をつけた。
男は大爆発し、店も大爆発した。
お客もコックもウエイトレスもほとんどが死んでしまったが、私は運良く生き残った。
辺りを見渡すと、あの女も原型をとどめず死んでいた。
わずかに残った洋服でその女と見分けることが出来た。

爆発の煙で辺りは真っ白だった。
爆発で耳がおかしくなり、音はなにも聞こえなかったが
救急車やパトカーのランプが煙の向こうで赤く光っていた。

また別のお店を探さなくちゃ。

私は救急員に担架で運ばれながらそんなことを考えていた。

投稿者 hospital : 2003年11月07日 11:17