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2003年11月20日

新しい歩き方

歩き方をかえた。
今までの歩き方に飽きたから、新しい歩き方を発明した。
とってもかっこいい素敵な歩き方。

新しい歩き方で街へ出た。みんなが俺を見た。
みんなが俺の新しい歩き方に注目した。俺は得意になっていた。
まだ誰もやったことのない新しい歩き方。
たぶん、人類史上始めての歩き方。

ひとりの少女が俺に話しかけてきた。
どうやって歩いているの?
こうやって歩いているんだよ。
えーと、こうかな。
ちがうちがう。そうじゃないよ、もっと、こう、足をほら、こんなかんじにして。
できないよ。
どれどれ、ちょっと足をかしてごらん。いいかい、まずは右足をね、こういうふうに、
ちょっと、うちの子に何してるの!
少女の母親がやって来てそう叫んだ。
まずいな。と俺は思った。
どうしたどうした。人が集まってきた。
ひどくきまりが悪かったので、俺は逃げ出した。
新しい歩きかたのまま早足でその場を去ろうとした。
やあ、逃げるぞ、追いかけろ。後ろでそんな声がした。
俺は走ることにした。新しい歩きかたのフォームのまま走ることにした。
つまり、この瞬間、新しい走り方が生まれた。

新しい走り方で全速力で走った。
俺を追いかける群衆たちがどんどん小さくなっていった。
自転車を追い抜き、バイクを追い抜き、車を追い抜き、新幹線をも追い抜いた。
とりあえず、海までいってみるか。
そんなことを考えなら猛スピードで走った。
あっという間に、海に到着した。走るのをやめ、砂浜に寝転んだ。
不思議なことに、まったく疲れを感じなかった。呼吸も全く乱れていなかった。
俺はとてもすごい歩き方及び走り方を発明してしまったようだ。
この歩き方及び走り方さえあれば、俺はオリンピックでいったいくつの金メダルが獲れてしまうのだろう。ひゃっほー。俺は空に向かって拳をあげた。

上機嫌の俺は、靴を脱ぎ、海へとむかって歩いた。もちろん新しい歩き方で。
向かってくるさざ波に足をひたし、それから沖に向かってゆっくりと歩いた。
すると、水の上を歩いてしまった。俺は新しい歩き方で海面を歩いていた。
この俺の姿をみて皆どう思うだろう。神、妖術使い、超能力者。とにかく群衆は俺を崇めるだろう。そんなことを考えながら近くに見える島を目指して歩いた。
俺は完全にいい気になっていた。

島は岸壁に囲まれていて、上陸するのはどうやら無理そうに見えた。
やあ仕方ない帰るか。と思ったが、試しに新しい歩き方で岸壁を登ってみることにした。
軽々と登れた。体が地球に対して平行のままで俺は歩いていた。
気がふれたみたいに笑いながら歩いた。

まったくなんて便利な歩き方なんだ。この歩き方さえあればどこへだって歩いて行ける。
きっと全人類が習得したいと思うだろう。そして、もし俺が世界中に歩き方教室を開校したならば、いったいどれだけの金を稼げるのだろう。
きっと世界一の金持ちにだってなれる。
いいいいいやっほおおおおおおおおお!!
完全に俺はハイになっていた。
口はだらしなく開き、そこから舌がべろんとこぼれ、手を羽のようにひらひらさせて、でたらめな鼻歌をでたらめな調子で歌った。そして、自然に足は高々とあがり、リズミカルにステップを踏んで、気がつけば、俺の足は、新しい歩き方のそのフォームをといて、軽快な調子でスキップをしていた。
こうして俺は、もうすこしで陸にあがるというところで、海へとまっさかさまに落ちてしまった。
塩辛い海の水を大量に飲みながら、泳ぎ方をひとつも知らないことを心の底から悔やんだ。

投稿者 hospital : 2003年11月20日 11:56