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2003年12月18日

必殺技3

聡子が可愛くてしかたない。ここ最近、聡子は占いに凝っていて、それは可憐な女性に似つかわしい趣味といえる。少女趣味に過ぎる嫌いもあるが、以前流行った動物占いなどに熱中していた彼女にしたら、独自の占いを発明することはとても幸福なことなのだろう。いじらしくもささやかな「小さな占い」を発明すると、決まって私のところにやってきては、感想を求めるのだ。

男としては、占いなど馬鹿げている、などと冷たく突き放すことはできない。聡子のささやかな幸せを大切にしてやる気概で鷹揚に対してしまう。そして、あらゆる物品を占うための道具として持ち出す聡子の単純だけどその切実さに、私は毎度感服し、抱きしめてやりたい気持ちをなんとか堪えるのだ。

聡子が顔を上気させて、なにやら告白したげに私の元へやってきた。上目遣いで、自信なさそうに私を透き通るような瞳で射る。

「占い・・・考えたんだけど・・・」

これまで様々な努力を新しい占いのために投じてきたのだろう。しかし、公表したことはこれまでにない。自分では納得の行く占いを考えたのだが、他人がどう思うのかには自信がもてない。ましてや公表する相手が自分の愛する男性であればこそ、その不安は絶頂点に達するのだろう。
そんな聡子の不安を男としたらすぐに解消してやりたいのは当然のことだ。すぐに「どんな占いだい?」と訊いてやって、彼女の笑顔が見たいのだ。すると、聡子の表情にパッと赤みがさす。

「ガラス窓占いって言うんだけど・・・」

一体どんな占いなんだろう、またもや不安げな表情に戻ってしまった聡子を安心させるために私は少しオーバーに興味を示してやる。聡子の表情が蔭るのは見ていて耐えられない。すると一瞬事務的な表情を見せたかと思うと、どこに隠し持っていたのか金槌を取り出して、えいっ、と部屋のガラス窓を叩き割りはじめた。
なるほど、窓ガラスを使った占いなんだな、と窓を粉々にしている彼女を眺めながら得心していると、「この割れ方は・・・」と聡子の表情に陰りがさした。
一体どんな結果なのだろう、不安になって聡子に答を訊いたところ、「・・・この部屋、寒くなるかも・・・」と告げた。
実際吹きすさぶ寒風がびゅうびゅうと入ってきて、部屋の温度は急激に下がったため、「当たったな」と言ってやると周到にも防寒着を着てから「うれしい」と俯いて喜びをかみしめた。
この姿がたまらなくいとおしい。防寒着の上からでも抱きすくめてやりたい衝動に駆られるが、照れてしまってそれができない。こんな時私は男としてふがいない自分を呪わしく、そして寒々しく感じるのだった。

「国際電話をかける占いっていうのも考えたんだけど・・・」

当たったことに自信を得たのか、聡子はしかし依然として謙虚な表情で話した。寒くて気が気でない私だったが、聡子がもう一つの占いを発表しようとしているのに気づくと反射的に「今度はどんな占いだい?」と訊き返すや否や、聡子はメモを取り出すとブラジルの時報を電話で鳴らし始めた。

「結果が出るのに時間がかかるので、先に『お金占い』をしたいんだけど・・・」

あっけにとられて暫く返事ができないでいると、なにやら聡子の表情が子供がむずがる時のようになっているのに気づいた。すると瞳からあふれ出した涙が聡子の頬を伝って零れ落ちる。
「私の占い・・・。つまらない・・・?」
どうして私は聡子をこんなにまで追い込んでしまっているのだろう。愛する女性をどうして私は悲しませているのだろう。自己嫌悪の極みに陥り、私はむせび泣く聡子に、一生懸命「すまない、すまなかったよ」と謝った。すると聡子は少しだけうれしそうな顔をして、「ありがとう」と言った。泣き止んだ時に見せる聡子の表情はまるで雨上がりの草原のようだ。面映い話だが、泣いている時も泣き止んだ時も、聡子の顔はたまらなく可愛い。

「さあ、お金占いって、一体どんな占いなんだ」

そう声を掛けてやると、彼女はその泣き止んだ表情のままで私の財布から残り少なくなっている札を抜き取ると、私には「しけてやがる」とポツリと言う聡子の声の幻聴が聞こえた。

唖然として仁王立ちしていると、この間のホスト風の男が突然上がりこんできた。
「寒いッすねえ、この部屋~」
と言うなり、「聡子、行くぞ」と私の聡子を連れだしてしまった。部屋を出がけに聡子が「ちょっと行ってくる占いなんだけど・・・」と言ったように聞こえた。
幻聴が多くなってくるなど、私も歳をとったのかもしれない。そして、今まで感じた事もないこの不安感は一体なんだというのだ。幸せすぎることが、私の不安をかきたてるのだろうか。
私の運命は一体どうなってしまうのか。今度新しい占いで、かわいい聡子に占ってもらおうと切実に願ったのだった。

投稿者 hospital : 2003年12月18日 12:11