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2003年12月08日

Cawaii制服

「可愛い制服に惹かれた」らしい。最近から妻が外で働きだした。結婚してからこのかた彼女は家にいて立派に家事をこなしてきた。子供も成長して手がかからなくなり、10年間立派な妻でいたご褒美に私は彼女に外で働くことを赦したのだ。

ずっと家にいたからだろう、外で働き始めた彼女は以前より幾分生き生きとしてみえて、若々しく立ち居振舞う彼女を見て私もなんだかうれしく思えたし、そうゆう変身を遂げた彼女に少しばかり嫉妬したのも事実だ。
一体どんなところで彼女は働いているのだろう、可愛い制服に興味を持つくらいである、きっとこじゃれた店だろうから年増の彼女が恥をかいてはいないだろうかと少し心配もあったのだが、「来週の日曜日、あなたもいらっしゃいよ」と言うくらいだから、私の心配も杞憂のようだ。

日曜日、子供を塾へ送った後、私は彼女の描いてくれた地図をたどってその店を訪ねた。店内はとてもきれいに清掃されてあり、今風の調度品を揃えてあってこれなら繁盛するだろうな、といった様子だ。「いらっしゃいませ!」、はきはきとした様子で応対する女の子もこざっぱりとしていて好もしい。妻の言うほど「かわいい」制服でもないが、きちんとした身だしなみを教育しているのだろう、これからも来たいなと素直に思わせる雰囲気である。

「斉藤と言います、妻が大変お世話になってます」

微笑して挨拶をすると、突然その女の子の表情が曇った。妻がこちらで迷惑をかけているのだろうか、心配になったがそれを訊こうとするや、その女の子はそそくさとひっこんでしまった。
そして、背後で妻の声がした。

「あら、来てくれたのね」
「おまえ・・・」

「うれしいわ。なににする?」
「制服・・・服はどうしたんだ」
「全裸よ」
「みればわかる」
「かわいいでしょ」
「なにか不満でもあるのか」
「なにがよ」
「だから・・・おまえ。服着てくれよ!」
「なにいってんのよ。スパゲティでいい?おいしいのよ」
「とにかく!」

困惑しきって私は自分が何を言っているのかが分からなくなっていた。
目の前に全裸姿で妻がウエイトレス然としている。ウエイトレスしている。

「私ね、気づいたのよ」
「・・・何にだ」
「ずーっと家にいたでしょ。家にいて子供の世話をして、趣味があるわけでもなく、お掃除してお洗濯して、夕飯の支度をして。あなたが帰ってくるのだけが楽しみで、けど、帰って来てもあなたは疲れきっててろくに相手もしてくれないし」
「なにに、気づいたんだ・・・」
「私って、つまるところ、妻なのよ」
「服、着てくれよ」
「いやよ」
「なにがしたいんだ」
「いいのよ」
「よくない」

そんな一悶着があったあと、彼女は私をまるで一人の客であるかのように、冷静な目で見つめた。こざっぱりとした店内で、全裸で働いている妻。てきぱきと、与えられた仕事をこなす、全裸の妻。今が人生の時、といった有様で家庭では見せる事のない表情の全裸の妻。
私はそんな彼女に何も言うことができなかった。「ここに、妻ではない、私がいます」と、そのたわわな乳房が私に語りかけているかのようでもあった。

「ご注文は」

冷徹な目で、しかし客として私のことを見ているからできるのであろう、丁寧な応対で私に注文を尋ねる。
「私は、妻ではない、私です」
そう、目で訴えているかのようだった。
「お客様」


「アイスコーヒー」


今夜、彼女の顔を、私は見ることができるだろうか。
妻を妻としてしか見てやれなかった私は、妻のことを一人の女性としてみてやることができるのだろうか。
母を母として、娘を娘として、そして、妻を妻として、私はそんなふうに女たちを見ることしかできなかったのだ。
これからは一人の女として、妻を見てやりたい。

投稿者 hospital : 2003年12月08日 12:06