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2004年01月12日

仮面の告白2

どうも。貴乃花です。


大晦日。俺はきついスーツと七五さんのような蝶ネクタイをつけて
リング下の放送席に座っていた。
K‐1の解説者として呼ばれたのだ。

隣には女が座っていた。

藤原ノリカ。そう。彼女は世間でそう呼ばれている。

「体育の星からやってきました。私の名はノリカ。一等賞です」

彼女は自分に言い聞かせるかのようにそんな独り言を言っていた。
まあ、俺には関係ない。
不安げな表情。不思議な女だ。


カメラが回った途端、彼女の表情は一変する。
それまでの不安げな表情は消え、ぱっと満面の笑顔でしゃべり出す。


貴乃花さん。

はい。

今日の試合、どう予想しますか。

そうですね。見てみないとわからないです。曙さんには頑張って欲しいですね。

俺はセオリー通りの返事しかできなかった。
深入りしてはいけない。

「女の気分など探るだけ無駄だ」

親方はいつも泣きながらそう言っていた。


K‐1。それは戦い場所をなくした男達のリングなのかもしれない。

曙vsボブサップ。

最初から嫌な予感はしていた。
相撲は相撲じゃないか。K‐1に出るなんてどうかしてる。

試合前の控え室で少し曙と話した。

「曙さん」
「あ。貴乃花だ。太った?」
「ああ。ちょっと」
「いいな-。僕は痩せちった」
「なんでこんな試合に」
「あーハワイ帰りたーい」
「なんでこんな試合に出るんですか」
「・・・・」
「・・・・」

「嫌な事ってあるでしょ?たくさん」
「え?はい。まあ」
「相撲やめてからどう?」
「どうって」
「嫌な事ある?」
「はい。ほどほどには」
「どすこーい。ってさ」
「は?」
「したいじゃん」
「え?」
「コチジャーン。って」
「どういう意味ですか?」
「コチジャンだよ。香辛料」
「わからないです」


試合が始まった。
いいように殴られるかつての俺のライバル。


「跳ぶ時は誘ってよ」
「え?」
「跳ぶとき」
「跳ぶときですか?」
「うん。全部捨ててさ。よーし、ブっ込むぞーって思ったらさ。誘ってよ。いつでも」
「え?はい。いいですけど・」
「じゃあ行って来る」

試合前、曙は最後にそんなことを言っていた。


試合中、ノリカは試合を見ず、下を向いてブツブツと独り言を言っていた。
隣にいる俺にわずかに聞こえるかどうかの小さな声で。

「どうも。超ノリカです」
「どうも。ブッチぎりノリカ。AV女優です」
「撮りっきりノリカ。カメラです」

「貴乃花さん」


ノリカがチラっと目線を挙げ、救いを求めるような顔で俺を見ている。

「はい」
「アタシってなんなんですか」
「は?」
「アタシってノリカですか」
「そうです」
「そうですか」

頼むから俺のほうを向かないでくれ。
俺は関わりたくなかった。

ノリカは再び下を向いて一人の世界に入ってしまった。


気づくと曙はリングの上で前のめりに倒れていた。


試合が終わりカメラがノリカに向けられると、
再びノリカは万面の笑みに戻り、ハイテンションで話し始めた。

「どうでしたか貴乃花さん。今日の試合は」
「はい。残念でした。前半曙さんもいい攻撃をしたんですが」


大晦日の夜はすごい早さで過ぎていった。

長かった夜も終わり、俺は家に帰った。
家に帰ると、景子が布団の中から 「お帰り」 と言った。

「ねえ。デブ」
「なに。景子」
「曙さん。負けたの?」
「うん」
「そっか。そうだよね」
「・・・・」

俺は黙って布団に入った。


「ウチもお金なくなったら出る?」


俺は何も答えず新年を迎える眠りに入った。

投稿者 hospital : 2004年01月12日 16:04