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2004年01月19日

残留

暗い気持ちのまま年を越してしまった。
変だな、と思い始めたのは年が明けてから数日が経ったある日のことだ。僕は仕事上移動手段に車を利用しているが普段その移動距離がかなりなもののため3日とあけずに給油されるのに、暫くスタンドに無沙汰をしていた。その事実に気づいてはっとしメーターをまじまじと見つめたのだが、8分目くらいのところをさしたまま、それはぶすっとして動く気配を見せない。

確か最後に給油をしたのは、昨年の27日だったと思うので、正月休みが入ったとしても丸10日は給油をしていないことになる。けれど、その間に走った距離といえば年始の挨拶回りもあったために相当なもので、これは明らかにおかしい現象なのだった。計器の故障とも考えたが、それにしてはここまで給油無しに走っているのがとても不気味である。
信号待ちでその事実に気づき暫く唖然とさせられていたが、いつのまにか信号が青に変わっていたらしく後続車から怒りのクラクションを鳴らされた。慌ててアクセルを踏み込むも、なんだかとても不思議な気分で会社まで車を走らせた。何かが私を陥れているようで、後へ流れてゆく風景が全て映画のように現実味に乏しく写る。
会社について暫くそのことについて考えてみた。誰かがいたずらで私に黙って給油しているのか。そんなことをしてメリットがあるのだろうか。再び駐車場に出て行って、車体のあちこちを眺め回してみたものの、車に関する知識は人並み以下であるため、なんとも判断のしようがない。
僕はそのまま立ちつくしたのだった。
途方にくれたまま終業時刻をむかえ、僕はその奇妙な車で帰宅をした。服を脱ぎ捨てベッドに裸のまま横になった時に、そういえば今日は何も口にしていないことに気づいた。奇妙なことが起きたために食欲が湧かなかったのかもしれないが、気持ちが落ち着いた今になっても一向にそれは変わらない。そしてはっとしてベッドを飛び起きたことには、最後に食事をしたのがいつだったのかも僕の頭は覚えていないのだ。
僕の体は、何も取り入れていないのだった。
僕の体は補給をしなくても大丈夫なのだろうか。冬なのでそれほど汗はかかないがそれでも新陳代謝による通常の排出は、ある。しかし、僕の体はエネルギーを必要としていない、そればかりでなく僕の乗っていた車もここ暫く補給をしていない。これはなぜか。不気味もこの上ないが、暫くベッドの上でうんうんと考えていたところいつの間にか寝てしまった。
夢で、僕の体が溶け出して行く様を見せ付けられた。熱したチーズのようにとろりと体のまったんが滴をたれる。ぽとぽと、汗と一緒に皮膚が溶け出して行く。末端の部分が徐々に不定形になり、床一面に僕の体が水溜りのように広がって行く。その水溜りの中から僕はそんな自分の状態を知覚しているのである。

夢から覚めて、僕はまた仕事にでかけた。依然として僕の体は排出をするが補給をしないままだった。数日が過ぎても一向に何かを食べる気持ちにもならず、もう2月になろうとしている。
年の初めのせいか少しだけ僕の周りが賑やかになった気がする。燃料計も8分目をさしたまま一向に減る事もないし、正月ボケの一種でもないようだ。

自分の大切な部分が気づかぬうちに溶け出して行くようで、気持ちが悪い。けれど体調は以前と変わるところ無く、よくも悪くもなっていない。現実感に乏しかった車から見える街の風景は少しずつ賑わいでいるようで、不気味な気持ちをずっと抱いたままの僕の心とは裏腹に小気味よく世界のすべては回転しているように見えた。
一人僕だけ取り残されたような気がして、少し寂しい感じがした。年の始めに僕はしっくりとなじめないのだから。

投稿者 hospital : 2004年01月19日 16:05