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2004年01月22日

素敵みたいな

「ふふ。5月の風みたいな素敵」

試験会場へ向かう電車の中で彼女はアタシの目の前に座っていた。
アタシは向かいに座っているその女をじっと見た。
彼女もアタシをじっと見つめていた。
彼女の周りだけ空気が違っているような美しい人だった。

いけない。

こんなことに気を取られている場合じゃない。
今日はアタシの第一志望の大学の受験日なのだ。
集中しなきゃ。

「第一志望みたいな素敵。それは本当に」

彼女はうつむいたアタシの心を見透かすかのようにそう言った。

なんなんだろう。この人は。

「受験生みたいな素敵。服は野暮」

なんなんだろう。この誉め言葉みたいなケナシ方は。

不思議とアタシは何も感じなかった。
ただただその女性を素敵だと思い、興味だけを持った。
彼女はその電車の中で、いや、私の今まで見てきた退屈な日常の中で唯一輝く存在の様に思えた。

「退屈な日常みたいな素敵。それは嘘」

え。

「ふふふ」

彼女は微笑みながらアタシを見つめている。

だめだめ。彼女に気をとられている場合じゃない。
降りる駅は近づいてきてる。
このままじゃ乗り過ごしちゃう。
そんなの絶対にダメ。受からなきゃ。今まであんなに勉強したんだもん。

「したんだもん。みたいな素敵。なんだもん」

殺したいほど素敵だった。

彼女は両手の人差し指を頬に当て、頭をやや傾かせながらアタシにそう言った。

「『受験日は~♪そこまで来てるのに~♪』 みたいな素敵。歌う素敵と聴く素敵」

彼女は歌い出した。どこかで聞いた歌。誰の歌だっけ。

「浜田省吾の『19のままさ』みたいな素敵」

そうだ。そうだった。兄が好きなのだ。昔よく聞かされた。
彼女はあいかわらず私を見て微笑んでいる。

次はもう降りる駅だ。

電車のアナウンスが響く。
よし着いた。がんばろう。今までやったことを精一杯発揮するだけ。
アタシは自分にそう言い聞かせながら
家を出る前に母がくれたお守りをポケットの中で握り締めた。

「試験みたいな素敵。くそくらえ」

彼女はそう言った。でもアタシは無視した。

アタシが電車を降りようとすると、彼女も同時に席を立った。
そしてアタシはそんな彼女を振り切るかのように早足で電車を下りた。
降りた後、ホームを見渡したが彼女らしき姿は見当たらない。

いるのはたくさんのアタシと同じ受験生らしき人だけ。
50過ぎのスーツを着たおじさんでさえも受験生に見えた。

「ありえない。ありえない。みたいな素敵」

どこからかそんな言葉が聞こえてきた。
辺りを見渡したが彼女の姿は見当たらない。


試験場についた。
もう心臓が爆発しそうだった。

「どっか~ん。みたいな爆発。素敵みたいな爆発」

彼女の声が聞こえる。
なんなんだろう。一体何なんだろう。

試験が始まった。アタシは緊張で頭が真っ白だった。

「真っ白みたいな素敵。雪みたい」

彼女の声が聞こえる。

「むしろ真っ青みたいな素敵。空みたい」

彼女の声がどんどん大きくなる。


アタシはなぜか強制的に試験を中断させられ、医務室へ連れてかれた。

「強制的みたいな素敵。許せない」

彼女の声が聞こえる。

アタシを連れてきた試験監督の若い男と、医務室にいた女の先生が何やら話している。

「大変ね。受験生も。こんなになるまで勉強して」
「そうですね。みんな受からせてあげたいですけどね」

「みんな受かったら試験いらねえよみたいな素敵。綺麗事みたいで綺麗」

彼女の声が聞こえた。彼女はアタシの気持ちを代弁してくれているかのようだったけど、
試験監督と先生はしかめっ面をしてアタシを見てた。

なんなんだろう。

彼女みたいな素敵。受験終わったら彼女みたいな服を着たい。

投稿者 hospital : 2004年01月22日 16:08