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2004年01月26日

確実にキモい

ミサトとはこれまでなんとなくだらだらと付き合ってきてしまった。

付き合い始めた頃は俺達も恋愛に夢中だった。しかし、いずれのカップルも経験するところだろう「倦怠期」というやつに陥って久しい。もう、彼女に心を動かされることもないだろう、彼女には悪いがそんな風に最近では思うようになっていた。
そんな折だった。近所の節介やきのバアさんがお見合いの話を持ってきた。うちの両親は俺に付き合っている特定の女がいるとは思っていなかったようで、後数ヶ月もすれば30歳の俺にはいい話だろうと、夕飯を終えた後の団欒の際に突然切り出したのだった。なんとなくだったが、俺は承知した。ミサトには悪いが、これが運命なのだと自分を正当化していた。

その日がきた。何も聞かされていない俺はそのバアさんに連れられて都内の有名ホテルへと向かった。行く途中の電車の中でバアさんは「すごくキモい子だから。本当にキモい子。きっとマサちゃんの気に召すと思うわ」とやや興奮気味に、ぶすっとした俺にしきりと話しかけてきた。少し変だと思ったが、俺は黙って聞くともなしに聞いていた。
バアさんが少々しつこくその女のことを誉めるので俺はしょうがなく、「どんな子なんですか?」と聞いた。すると、バアさんはうれしそうに、「すごくいい子。確実にキモいのよ。本当にキモいのよ」と言った。「キモい」のどこが誉め言葉か分からないのだったが、真剣に言っている様子が俺に妙な納得をさせてしまった。

部屋についた。流石の俺も少しだけ緊張をして入室すると、先についていたようでこちらに気づいたその女は突然立ち上がり、「はじめまして」と俺のほうに微笑みかける。

驚いたことには、その見合いの相手はミサトだった。
かなり意表をつかれた形で俺はその場にリアクションも取れず立ちつくしていたのだったが、ミサトは普段どおりの様子でにこやかにこちらを向いている。ミサトに黙って来てしまった見合いの相手が、まさかミサト本人だったとは・・・。瞬間彼女に対して後ろめたさを感じたが、ミサトとて俺に黙って見合いに来ているのである。少しだけ腹がたった。
「じゃ、後は若いお二人だけで・・・」と決まり文句を吐いてから、バアさんは俺達を二人だけにして退室してしまった。
暫くの沈黙が流れる。先に言葉を発したのはミサトだった。

「確実にキモいって言うから・・・。楽しみにしてやってきたのに・・・」

今にも泣き出しそうな様子で、ミサトはそう言った。まさに晴天の霹靂だった。あのバアさんは、俺のことを「確実にキモい」とミサトに紹介していたとは。しかも、俺に対してもミサトのことを「確実にキモい」と紹介していた。なんだかあのバアさんに俺達カップルのことを馬鹿にされきってしまったようで、腹が立つというよりも不気味だった。

「あなたは、どうしてお見合いなんかに来たの?」

それはこっちの言いたい科白だった。けれどどうしてだろうか、バアさんの言う「確実にキモい」を聞いた俺は普通だったら「そんなら、帰りますよ」と帰って来てしまうこともできたろう。何故だ。何故俺はキモいことが分かっていて、ここまで来たのだ。
確実にキモい。確実なものに、俺は惹かれていたのだろうか?

「あなたとは違って、確実だと思ったから・・・」

ミサトは突然泣き始めた。泣きたいのはこっちだった。どうゆうことだ。
「来てみたら、『普通にキモい』あなたじゃない・・・」そこでミサトは床に倒れ伏して嗚咽をしはじめた。
泣き喚くミサトを俺は持て余した。「普通にキモい」という言葉が俺の頭の中を支配していた。
ミサトも何か「確実なもの」を期待してここまでやってきたのだろう。俺も、茫漠としたこの世の中に「確実なもの」を求める時がある。しかし、なんだって「確実にキモい」なのだ。
気づくと、それまでの色々な腹立たしさや苛々が俺の中から消えてしまって、俺は倒れ伏したミサトを後から抱きしめていた。

「ごめんな。ごめんな。俺、普通にキモかったな。ごめんな。ごめんな。俺、今度から確実にキモくなるから・・・。これからもよろしくにょ・・・」

俺もあふれ出る涙をどうすることもできず、ただただそう言ってやることしかできなかったのだった。ミサトもそんな俺に「ううん。いいの。気づいてくれれば私はうれしいにょ。あちき感動なのら・・・」と言ってくれた。

そして俺達は互いに黙って見合いに来てしまったことを詫びて、仲直りをすることにした。付き合い始めたころの気持ちを少しだけ思い出したような気がした。そんな俺たちの様子をみて、バアさんがいかにも嬉しそうにしたり顔で、うんうん、と頷いていた。

俺達はそこから出た。銀座の街を、仲直りした俺達は、仲良く手を取り合って歩いた。皆こちらのほうを見ていた。「きも~い」という声が聞こえてきた。
それでもいい。俺はそう思った。

投稿者 hospital : 2004年01月26日 16:09