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2004年02月09日

最後のディスクレビュー15

ケンジの古い靴下についている毛玉を一つずつつまんでとっていた。
アタシは心の中で一つつまむごとに念じていた。


切ないかも。


切なくないかも。


切ないかも。


切なくないかも。


切ないかも。

「切ないな。お前」


ケンジの声がしてふと我に返った。

顔を上げると、ケンジは新品の靴下を両耳にかぶせて煙草を吸っていた。


どうやら二月も切ない。

まあいいわ。そろそろディスクレビューに入るわね。


まず最初はピンバックの「ディス・イズ・ピンバック」
昔パンクバンドを組んでいた二人が始めた静かで大人っぽいバンド。
昔、網タイツをはいて牛乳を一気飲みしていたケンジは
最近そんなことをしなくなった。
嬉しいような嬉しくないような。
松岡修三のハイソックスがたまにまぶしく見えるのはそのせいかも知れない。

お次はレッドハウスペインターズの「ソングス・フォー・ア・ブルーギター」
タイトル通りとってもやさしくてアタシの大好きなアルバム。
ケンジは最近「ペイントハウスごっこ」にはまっている。
これはケンジがそう呼んでいるペンキを使った遊びで
出かける前の入念な化粧を終えたアタシの顔や洋服に
赤ペンキを塗りたくる。

という遊びだ。

塗る時に「勢いよく塗れたかどうか」ということで得点が変わってくる。
ケンジが嬉しそうなのでアタシも嬉しい。


最後はニューオーダーの「ゲットレディー」

「レディー・・・・・ゴーッ!」

ケンジはそう叫んで、ペンキバケツに残っていた赤いペンキを
アタシの洋服ダンスの引き出しを開け、丁寧に流し込む。

「ペイントハウスごっこ」はここで終了する。

赤って素敵。つらすぎて涙も赤い。


気づいた人もいるかもしれないけど今回は「年をとった人たち」に注目してみました。
譲れるものと譲れないもの、そんな言葉をたまに耳にする。
若い頃、アタシの勝負パンツは「白」だった。
「白ってありえない」と色んな人に言われる度に

それがアタシだもん。

って自分に言い聞かせてたのもきっと同じことだと思う。
いつからかアタシは勝負をしなくなった。

彼らの音楽から聞こえてくるのはそんな勝負の向こうにあるやさしくて落ちついたメロディー。
彼らが「譲れなかった何か」は今
前に出ることのないメロディーのずっと奥のほうで
目立たない顔をして微笑んでいる。

ケンジはアタシのパンツを見てこうつぶやく。


「ベージュかよ」


吐き捨てるようなケンジの声がやさしくなるのはいつのことだろう。

そんなアタシの最後のディスクレビュー。

爆風スランプの「ランナー」

いつか、「墓場の中に一枚CD持ってくとしたら何持ってく?」って聞かれたら
この歌を大音量で流しながら

「何も」

って答えて。それで去ってく友達なんて友達じゃないわ。


そんな感じかな。

それじゃあまたね。

投稿者 hospital : 2004年02月09日 16:15