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2004年02月27日

マシンガンごっこ

「今からマシンガンごっこをします」

妻はそう言ってマシンガンでオレを撃った。

ズガガガガ。ズガガガガ。

全ての弾丸がオレの体を貫通した。


理由はわかっていた。
最近のオレのやっていたことを思い返せば当然なのかもしれない。
妻の料理を「まずい」と罵り、妻の服装を「野暮ったい」と罵り、
妻の母を「泉ピンコに似てる」と言い、一日履いた靴下を電子レンジで温めてから
居間の床に投げ捨てるという手の込んだ嫌がらせもした。

なんでこんなひどいことばかりしてしまったのか。


オレは仰向けにばったり倒れたまま妻の顔を見た。
オレは色んな思いを込めて妻を見たつもりだった。
どうか撃たないでくれ。
そんな目をしていたと思う。

だけど、妻はそんなオレの目と目の間をめがけて

撃った。


オレは死んだ。


あたりは真っ暗になった。

死ぬってこういうことなのだろうか。


なんで意識が残ってるんだろう。
死んだ瞬間、テレビの電源をオフにしたように、全てが消えてしまうのだと思っていた。
不思議だ。
今のオレは考えることも感じることもできる。

あたりは真っ暗だった。
目の前に何もない状態。無の状態だ。
そもそも目がないのかもしれない。
目も鼻も口も耳も。


便利じゃないか。


オシャレできないのは残念だけど
自分しか存在しないならそのうちそんな思いも消えてしまうはずだ。

食べる必要もない。着飾る必要もない。

俺は全ての束縛から解放されたんだ。

死ってのはこういうものだったんだ。

いいぞいいぞ。
自由だ。オレはなんでもできる。

よーし。音楽でも聞いて横になって寝よう。
起きてからこれからのことをゆっくり考えればいいんだ。


待てよ。CDプレイヤーはどこだろう。

大体横になるって感覚もおかしい。
今、オレには体という感覚もないし、
そもそも重力を感じない。

まあいい。音楽は諦めよう。
残念だけどそのうち慣れるさ。

そういえば、メラトニンという意味不明な睡眠薬があったな。
たしか、友人が昔家に置いて行ったものだ。
一度、試しに5錠ほど飲んで寝たところ
目覚ましも何も全く聞こえず、まるで死んだように眠り続けたことがあった。

深い深い眠りだった。

あれ以来少し恐くなって飲むのをやめていた。

いいぞ。
今こそあの薬を飲む時なのかもしれない。
文字通り死んだように眠ろう。

確か電子レンジの上にあったはず。

しかし、どこを見渡しても電子レンジなんて見当たらない。
当然メラトニンの入っている筒型の容器も見当たらない。

諦めた方がいいな。

ここにはもうなにも存在しないのだ。
そろそろ慣れなくてはいけない。

でもまずいな。

眠れないと困る。
眠って起きればどんな悩みも忘れているのが取り柄だったのに。

少し不安になってきた。

どうしようかな。


会社へ行こうかな。


・・・会社?


なんで今更会社なんかに。

そもそも何のために働いていたのだろう。

お金のためだろうか。家族のためだろうか。自分のためだろうか。

まあいい。もう会社なんて通わなくていいのだ。


でも、ちょっと顔を出してみたっていいさ。

そして冷やかしてやるんだ。今も真面目に働いているかつての同僚達を。


買ったばかりのスーツを着て行こう。

あれ。洋服ダンスがないぞ。


そう。そんなものはないのだ。

会社も二度と行けない。

同僚などもう存在しない。


どうしよう。

煙草。

ない。


テレビ。

ない。


電話。

ない。

何にもない。

小さかった不安がどんどん大きくなってきた。


おかしいな。なんだかソワソワする。


お腹をさすろうとしたが、お腹がない。
さするはずの手もない。


こんな時。

こんな時はいつもどうしてたっけ・・


今みたいな八方ふさがりの時


そうだ。サチコに電話・・


サチコなんていない。
二度と俺の前に現れることはない。

サチコも。サチコ以外の女性も。


不安はどんどん大きくなって恐怖へと変わった。

まずい。

嫌な汗が額に・・

かかない。

汗すら出ない。

こんな時はこんな時は・・

そうだ。槙原ノリユキの「どんな時も」を聴こう。
あの歌に何度も救われた。


どうしようどうしよう。


誰か


誰かオレを殺してくれ。

投稿者 hospital : 2004年02月27日 16:17