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2004年03月10日

考える人

会社の危機だった。
経営は行き詰まり、何か新しいアイデアをもったヒット商品でも生まれない限り、倒産は時間の問題だ。
私は部下にアイデアを募った。


次の日、一人の部下が満足気な顔をして私のデスクを訪れた。

「折りたたみ式の携帯電話ってあるじゃないですか」
「うん」
「あれって人気ですよね」
「そうだね」
「あれからヒントを得たんです」

「あれって折る時にパキって音が鳴るじゃないですか」
「うん」
「あれが人気の秘密だと思うんです」
「え?」
「気づいてない人も多いと思うんですけどあれが気持ちいいんだと思うんです」
「そうか」
「それをヒントに作ったのがこれです」

差し出されたのは「ティッシュ」だった。
ヨレヨレに丸められたティッシュだ。

「開いてみてください」

言われたとおりそのティッシュを開いてみるとパキパキと音がした。
開き終わったところでまたしわくちゃにしてみるとまたパキパキと音が鳴った。

「どうです?」

どうなんだろうか。
全然わからない。


「じゃあこれはどうでしょうか」

そう言って今度は煙草を差し出した。

一見普通の煙草だ。

「普通の煙草と違うのか」
「はい。フィルターの所で曲がります」

持ってひねってみるとフィルターの所で少し曲がった。
そしてパキと気持ちのいい音がした。

「どうです?」

わからない。
ダメだと思う。だけど確かに気持ちいいことは気持ちいいのだ。
煙草を吸っている時にパキパキと音を立てているのも楽しいかもしれない。

「ティッシュよりはいいと思うけどな」
「そうですか」
「でも鳴る必要がないじゃないか」
「そうでしょうか」
「そうだよ。携帯は折る必要があるだろ?」
「そうですね」


「ではこれはどうでしょう」

さっきから気になっていた。
部下の後ろに一人の女が立っていたのだ。
フィリピン系の女でオレンジのミニスカートに白いTシャツを着ていた。
靴はコンバースだった。
キョロキョロとオフィスを見渡している。

女は私の前に立った。

「見ててください」

部下が女の耳元でなにかつぶやくと
女は腰をクネクネと動かして踊り出した。
その腰の動きに合わせて部下は「パキパキパキパキ」と言いだした。

フロアの他の社員も驚いてこちらの様子をうかがっている。
シーンとしたフロアには、部下の「パキパキポキポキパキポキ」という声と
すごい早さで腰をくねらせる女の息だけが響いた。

「どうでしょう」

どうだろう。

「たしかにコストに難があるんですよね」

難は君とその女にある。

「でも大量生産すればなんとかなりませんかね」

大量生産というより密入国だ。

「だめですかね」
「ダメだな」


他の社員達は溜息のような笑いを漏らし、また仕事に戻った。
部下はがっかりして私のデスクを去った。


次の日、部下はまた満足気な顔をして私のデスクを訪れた。
「また考えたんですけど」
「そうか。聞かせてくれ」

「減っている物にひかれる傾向がありますよね」
「どういうこと?」
「例えばTシャツを買おうと思って何色にするか迷ってしまった時、たくさん余っている色と、1枚しか残っていない色があったらどっちを選びますか?」
「まあ売れてる方選ぶだろうね」
「そこに着目して作りました」

部下はそう言って「ポロシャツ」を取り出した。
一見普通のポロシャツだったがよく見ると
右半分だけ襟がなかった。

「どうでしょうか」

着目点とのつながりがよくわからなかったし
売れる理由も見つからなかった。

「普通のポロシャツの方がいいんじゃないかな」
「わかりました」

「ではこれはどうでしょうか」

そう言って次に部下が取り出したのは「今にも割れてしまいそうな割り箸」だった。

「どうでしょうか」
「確かに割りたくはなるね」
「ぜひ商品化を」
「でも買いたくはならないと思う」

部下はうつろな表情をしていた。
必死に考えてきたのだろう。
煮詰まってしまっているのが伝わってきた。

「そう言われた場合のことも考えてました」
「そうか」

「これならどうでしょう」

さっきから部下の後ろに厚化粧をした50歳くらいのオバさんがたっていることには気づいていた。
でも、そのことにあえて触れないでいた。
できれば永遠に触れたくなかった。

「使い古されたオバさんです。ぜひ商品化を」

売り出したら訴えられると思う。
むしろ、どう使い古されたのか書いて本にした方が売れるのではないだろうか。

「こちらもコストに難があるんです」

難は君にある。

部下は目をぱちくりさせていた。
寝てないのだろう。

「もうちょっとリラックスして考え直すといいと思うよ」

「そうですか」


部下は落ち込んで私のデスクを去った。

オバさんはそんな部下の背中と私を交互に睨みながらオフィスを出ていった。


何か嫌な気持ちだった。


私は喫煙所へ行って、ビルの窓から東京の街を見下ろした。

遠くにお台場の観覧車が見えた。

巨大な輪っかだ。

あれができた時、賛成する人と反対する人とどっちが多かっただろう。

部下は明日も新しいアイデアを持ってくるだろうか。

持ってきたら

持ってきたら少しは認めてあげたい。

投稿者 hospital : 2004年03月10日 16:23