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2004年03月30日

ママの憂鬱

ママと渋谷に買い物に来た。
アタシはママと手をつないでデパートに向かって歩いてた。


ママ。タートルネック買って

だめよ。タートルネックなんて


ママはアタシにやさしい。
だからって甘やかしたりはしないけど、でもママはやさしい。


なんでダメなの?

神様がタートルネックはダサいって決めたの

そうなの?

ママにもわからない。今の忘れて


ママはうつむきながら歩いてる。
強くアタシの手を握ってる。
ママの手は汗ばんでる。


ママ?


ママはもっと強くアタシの手を握った。


たぶん。アタシ。ダメなの


ママはたまに弱気になる。


このくらいわかることがあるとするでしょ?


ママはそう言って手の平を水をすくう時みたいにしてアタシに見せた。


そしたらあなたに教えてあげられることもこのくらいなの。わかる?


わからないけどアタシはママの目をじっと見た。


ママがわかってることはね。ほんの少しなの


ママはアタシを見ないでそう言った。


だからあなたにはそのほんの少しだけ教えてあげられる


ママ


タートルネックだっていいのよ。着てる人はたくさんいる。赤いのや紫色や色んな色


ママはアタシの手をひいて横断歩道を足早に渡った。


ママは空っぽなの


突然ママはそう言った。


ただね。わかることだってあるの。さっきママはタートルネックはやめて欲しいって思った。それはわかるでしょ?


うん


それはね。ママが今まで見たタートルネック着たOL風の女やオシャレになりきれないAPC好きの若い男とか・


そこまで言ってママは言葉につまった。


ママどうしたの


ごめん。人のこと悪く言いたくないの。わかる?


よくわからなかったけどアタシはママの目を見た。


ただね。さっきママはあなたにタートルネックを着て欲しくないって思ったの。強く


うん


きっと似合うわよ。きっとかわいいと思う。赤いタートルネック着てる小さなあなたを想像するだけでママは・


そう言ってまたママは言葉に詰まってしまった


でも、ダメなのよ。それじゃあ


そう言うとママはアタシの手を強くひいて今きた道をまた戻った。


浅草行きましょ


ママはそう言った。


アタシは「嫌だ」ってはっきり言ったけどママは何も答えないで電車に乗った。


浅草は込んでた。


汚なくて訳のわからない店がたくさん並んでた。


ママはその中の変なオジさんが着るような革ジャンばかり売ってる店の前に立って言った。


どれでも好きなの選びなさい


アタシはどれも欲しくなかった。


選びなさい


ママはそう言いながら強くアタシの手を握ってた。


ごめんね。こんなママで


ママは店の奥のほうにかかっている黒くて丸っこい弾丸みたいな革ジャンを睨みつけながらそう言った。


ママの手は震えてた。ママの顔を見たらママの目は涙でいっぱいになってた。


ママ、バカでごめんね


謝らないでママ


ママ、かっこ悪くてごめんね


ママ謝らないで。大好きだよ

結局ママとアタシは何も買わないで浅草駅に戻った。


戻る途中、小さな喫茶店に入って、ママはコーヒーを飲んでアタシは牛乳を飲んだ。

おいしい?

ママはやさしい顔をして笑ってアタシにそう言った。


おいしいよ

家に帰るとパパはもう会社から帰ってきてて居間で煙草を吸ってた。

アタシとママを見ると「おう」っていつもみたいに笑いながら元気に言った。

ママはわっと泣き出してパパに抱きついてた。

パパは最初ビックリしたけどすぐにママを抱きしめてた。

ママはね。空っぽなの


その日、寝る前にママと並んで歯を磨いていたらママはまたそう言った。


アタシは「うん」って元気にうなづいた。


そしたらママはアタシの頭をガシガシと強くなでてくれた。


その日の夢の中。


アタシは赤いワンピースを着てママとパパに挟まれながら芝生の上に寝転んでた。

投稿者 hospital : 2004年03月30日 16:26