« 殴り書きレター | メイン | 未来は今 »

2004年05月30日

8人の女たち(吉原)

私の目がキツすぎたなら怒ってもいい。

何かを捨てる必要があるって思ったことある?

例えば

勝ちたいと思った時。


私は吉原和子。
女子バレーがアテネ行きを決めた夜。

ヒヨッコ達が嬉しさを分け合っている夜

私は一人、マンションでウイスキーを飲んでいた。

アイツが出て行った部屋。


「お前、サムライみたいだ」


アイツはそう言い残してこの部屋を出ていった。

「違う。アタシは普通の女」

そんな言葉が心の中に浮かび、消えた。


サムライ。

ボールが舞う。

ヒヨッコ達が華麗に飛び、

打つ。

アタシはそれを見届ける。


プリンセス・メグ。


彼女が飛ぶと、ラベンダーの香りがする。と

「レオ」こと佐々木が言っていた。

「オレはサムライにはなれないよ」

焼酎を飲みながらある晩、レオは言った。


「レヲって呼んでよ」

「レオ?」

「ノー。レヲ」

「レヲ」

「うん。落ちつく」


レヲは視線をバーカウンターの上に落とした。

「オレはサムライにはなれないよ」

その日、アタシとレヲはとりとめのない話をした。

バカみたいなとるに足らない話。

それ以上の話は耐えられなかったから。


氷が溶けて音を立てた。

アテネ行きが決まった日、日本中で韓国を応援していた人間がどれくらいいただろうか。

韓国はただの「敵」だった。


プリンセス・メグが飛ぶ。

ラベンダーの香り。

ボールが韓国コートに突き刺さる。

観客席が湧く。


ジャニーズのガキとイカれた女子アナウンサー。


「最高です!」


なにが。


「うれしい!」


なにが。


「おめでとうございます!」


だから

なにがだ。


私は一人バーボンを飲む。


アイツが出て行った部屋で一人。


私はなにを見てる

バレーボール


NO


リベロの成田


NO


相手のコート


NO


私には何も見えない。

ふと携帯を見ると不在着信。

ナカガイチ 0時33分

アイツだ。

すべて捨てたはずなのに。


諦めの向こうで生きていこうと決めたのに。

アタシの手が携帯を操る。


プルルルル プルルルル ガチャ


「もしもし。ナカガイチです」


「アタシ」


「ああ。どうした」

「アテネ 決まったよ」

「見てた」


「・・・・」


「・・・・」


「しゃべって」


「ああ」


「お前」


「・・・・」


「かっこ良かったな」

昔、レヲがこんなことを言ってた。


「オレはバレーがしたいわけじゃない。うまい酒が飲みたいだけ」


レヲは酒のために。

私は何のために?

勝つため。


勝つため。


ちがう


吉原炎上。


散ってもいい。


アタシ、アテネでサムライになる。

投稿者 hospital : 2004年05月30日 16:38