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2004年05月12日

白昼夢の過ごし方

「お兄ちゃん。あのホステス苦しんでるような気がするよ」
「どれどれ」

実際、数人のホステスは苦しんでいた。
アタシの顔きっと疲れてる、ノリの悪い化粧、ほんとはこんな派手なスーツ着たくないのに。
最近、鏡を見るのがつらい。

「お兄ちゃん。見てると苦しいよ」
「だめだ。目をそらすな」

僕達兄弟が見ていたのは「ホステス集会」だった。

ホステス集会というのは生活に疲れたホステス達が週に一度
新宿中から集まって何か一つのテーマについて話し合うというクラブ活動のようなものだ。

「お兄ちゃん。なんで話し合うの」
「理由のいらない話し合いもあるってことだろうな」
「わからないよ。お兄ちゃん」
「俺もお前くらいの時はわからなかった」

でも、その日のホステス集会は少し様子が違った。
一応、場を仕切っているママさんホステスがいて毎回、場が白熱してくると

「お願いだから頑張らないで」

と号泣しながら止めるというのがお決まりのパターンだった。
今回もそうなるであろうと思っていたが、どうやら様子がおかしい。

「まずいな」
「なんで?」
「どうやら今回、一番白熱しちまったのはママさんのようだ」
「まずいの?」
「みんなで白熱して、それを止める人がいなかったら」
「いなかったら?」
「脱皮しちまうだろ」

お兄ちゃんの言葉は本当だった。
実際、数人のホステスの背中から透明に透ける綺麗な羽が生えはじめていた。

「でも綺麗だよ。お兄ちゃん」
「ああ。綺麗だよ。だから儚いんだ」

一人のホステスが目を閉じて飛び立とうとしていた。
ゆっくりゆっくり上昇して行く。
さっきまで着ていたハデで悪趣味な服は消えて、体全体が透明に光っているように見えた。

「蛍みたい」
「そうだよ。昔、ホステスはみんな蛍だったし、蛍はみんなホステスだった」


「ちょっと。みんな待って」

急にママさんホステスが口元に人差し指を当て
中腰になってみんなの顔を険しい顔で見渡した。

「誰か見てる」

うそ。ヤダ。
ホステス達の間から次々とそんな声が上がった。

「どうやら見つかっちまったらしい」
「どうする?お兄ちゃん」
「素直に退散するさ。もともと邪魔する気はないからな」
「うん」

僕達兄弟は結局、その場を離れて遠くから見守ることにした。
もう、ホステス達の話し声は聞こえなくなってしまったし、姿も見えなくなってしまった。

「お兄ちゃん。なんにも見えない」
「大丈夫。黙って見てろ」

しばらくすると、ホステス達は皆飛び立つ準備を始めた。
ゆっくりとゆっくりフワフワと光りながらホステス達が飛んでいく。
みんな透明で透けるように光ってた。

「お兄ちゃん。ホステスはどこへ行くの?」
「新宿だよ」
「だって新宿から来たんでしょ?」
「でも新宿なんだ」
「よくわかんないよ」
「それでいい。わからなくていい。全部わかる必要なんてないんだよ」

ホステスはすごく綺麗だった。
それだけでもう他になにもいらなかった。

投稿者 hospital : 2004年05月12日 16:33