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2004年05月24日

殴り書きレター

お父さんへ

お父さん。元気ですか。日本は5月とは思えないほど暑くて、僕は毎日サッちゃんとガリガリ君ばかり食べてます。サッちゃんがこないだ「ガリガリ君って歯にしみる」って遠い目をして言ってたんだよ。その後「ああ。なんか嫌なこと思い出した」って言ってた。音楽聴いて昔を思い出すのって素敵だけど、ガリガリ君食べて昔思い出してたサッちゃんもなかなかだったよ。


話はかわります。こないだ遠足で北海道にある「ダメ人間記念館」に行ってきたよ。最近、日本では結構な話題になってるんだよ。人権問題だとか言ってワイドショーとかでも取り上げられてるけど、現地の人達は村おこしになるって考えてるみたいで、今じゃちょっとした観光地になってるんだ。結構すごい所だったよ。まずね。入った瞬間、モグワイが流れてたの。モグワイってわかる?なんか暗い音楽でヒキコモリ系の人が好きそうな音楽。サッちゃんは「出た」ってつぶやいて一人で笑ってた。

それからね。薄暗い廊下を歩いていったの。なんか狭い廊下でさ。90cmしかないの。人が歩けるぎりぎりの狭さなんだって。ガイドのお姉さんの話ではダメ人間の人は「ギリギリ好き」なんだって。無駄にギリギリなんですけどね。って苦笑してた。それでね。その暗い廊下を抜けてちょっと広い部屋に出たんだ。北側が全面ガラスで暗い光が部屋にさし込んでた。南から光を入れないのもダメ人間にとっては重要らしいよ。ガイドさんはあの部屋についた時「意味がありそうな顔して空っぽなんだよあいつら」って吐き捨てるように言ってた。この人家族か恋人にダメ人間の人がいたのかなって思った。その時サッちゃんは「このガイド笑える」って言ってた。

それでね。そこに黒い革ばりのソファーが2つ並べておいてあったよ。その前に小さな長方形の机が置いてあってその上にガラスの灰皿が置いてあった。革とかシンプルとか好きなんだって。ダメ人間の人って。ソファーとか。よくわからなかったからガイドさんに聞いたら「わからなくていいよ」って言ってた。もうホント嫌だって顔して言ってたよ。何があったんだろ。あのガイドさん。サッちゃんはその時も一人で笑ってた。サッちゃんってなんか不思議。

その後も暖炉のある部屋とか、CDがいっぱいある部屋とか、やたらでかいベッドが一つ置いてある部屋とか色んな部屋があったよ。どれも薄暗かった。あとね。地味な絵がかけてある部屋が多かったよ。気取らない絵っていうのかな。僕は結構いい絵だなって思った。ガイドさんはその絵をすごく嫌そうに見てたから、僕「なんでですか?」って聞いたんだ。そしたらガイドさん「まだ意味不明な前衛アートとか飾ってくれた方が救いがある」って言ってた。その後「肩の力抜けてるぶるんだよあいつら!」って急に叫んでさ。館長さんが慌ててかけつけてたよ。ガイドさんその場に座り込んじゃって肩で息してた。サッちゃんはもう面白くてたまらないって顔して必死で笑いをこらえてたよ。

でね。そこからは色んなダメ人間の人の顔写真が飾ってあるちょっとしたミュージアムに行って結構面白かったよ。写真見たらさ。全員地味な髪型してた。控えめなんだって。ダメ人間の人って。「控えめのくせして小声で主張するんだよアイツラ」ってガイドさんは壁をコツンコツンって握りこぶしで叩きながら自分をなだめるように言ってた。「何にもデキねえくせしてよぉ!」って叫んだ時はもう誰も止められなかったよ。館長さんも遠くから辛そうな顔して見守ってた。


その日、サッちゃんと二人で駅から歩いて帰ったんだ。サッちゃん来週のTOEICの勉強してるんだって。「まあ資格でもとっとく」って煙草吸いながら言ってた。僕もやってみようかな。

変な手紙になってごめんね。また書くね。お父さんが出所したらお母さんと3人でなにかおいしい物でも食べに行こうね。お母さん今でも、「浮気相手にゴネられてテンパって刺し殺しちゃって終身刑くらうような男と結婚したのが間違いだった。見抜けなかったアタシがバカだった」って毎日言ってるけど、お父さんが出てくるころ、あと40年くらいかな。それくらいしたら変わってるかもしれないしさ。

でもね。ガイドさんの話ではお父さんのような人は「ダメ人間」じゃなくて「バカ」って言うんだって。「バカから可愛気をなくしたのがダメ人間」なんだって。最後、僕らの担任の先生に絡んでたからね。あのガイドさん。

いいことあるといいね。あのガイドさん。


息子より


P.S.お父さんごめん。こないだの手紙でお父さんが勧めてくれた本つまらなかったよ。

投稿者 hospital : 2004年05月24日 16:37