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2004年07月04日

顔にまつわる話

近頃、アタシの眉毛は仲が悪い。
左右の眉毛で何やら言い争いをしている。

アタシからすると、眉毛は大事なチャームポイントだし、仲良くして欲しい。


「あんたね。左マユのくせしてでしゃばりすぎよ」
「そんなこと言わないでよ」
「こないだ言われたわ。『アナタ右から見たほうがきれい』って。なんでかわかる?」
「なんで」
「アタシのほうがアンタよりきれいだからに決まってるじゃない!」
「そっか・・。でも、マユゲでそんなに人の顔って変わるのかな」
「何言ってんのよ!もっと自分に自信持ちなさい。まったく。マユゲの風上にも置けない」


こんな調子だ。
右マユの方が自分を押し出すタイプで、左マユは控えめな性格のため
今までそれなりに、うまくやってきたのだが。

二人の仲が壊れ始めたのはアタシに原因がある。

少し、シャカリキ気味の右マユをアタシがカミソリで整えたのである。
その左マユに合わせた整え方が、右マユのプライドを傷つけたというわけだ。

右マユの怒りはアタシにではなく、左マユに向けられた。


「あんた。控えめなふりしてやることえげつないわね」
「な・・なんで」
「しらばっくれてんじゃないわよ。このマユゲ」
「どうしたの」
「見てよ。アタシのこの姿。アタシの個性なんて完全に無視されたのよ」
「そんなことないよ」
「嘘おっしゃい!この泥棒猫!」
「そんな・・」

右マユは完全に自分を押さえることができなくなってしまった。
困った左マユはアタシに直接相談してきた。

「あの。アタシ、左マユなんだけど」

どうしたの

「右マユがすごく怒ってて、困ってるの」

つらいのはわかるけど、マユゲ同志なんとか仲良くやってくれないかな

「ムリ。アタシには手に負えない」

鼻に仲介に入ってもらったらどうかな。近くだし彼って案外大人なんだから

「そっか。頼んでみる」


こんな調子で、左マユは鼻に相談を持ちかけた。

「あの、鼻さん。左マユだけど」
「やあ。マユちゃん」
「その呼び方やめてよ」
「どうして」
「どうしてって右マユに怒られる」
「そう?」
「そうよ。『鼻さんはアタシに惚れてる』っていつも右マユ言ってるから、アタシと仲良くしている所見られたら・・」
「わかった。でも、僕は右マユちゃんより、左マユちゃんのことが・」
「やめて」
「わかったよ」

こんな調子で、実は左マユに恋をしている鼻は、まともなアドバイスをするどころか
左マユの悩みさえ聞いてあげることができなかった。

左マユはしょうがなく、上唇に相談することにした。
上唇は顔の中で一番の人格者であるが、
下唇に問題があり、そのことで彼らももめている最中であった。


「あの上唇さん」
「やあ。左マユさん。どうしたの」
「あのね。実は近頃、右マユと・・」

― 10分後

「そうか。気持ちはよくわかるよ。オレ達も今もめているからね」
「下唇さんなにか悪いことしたの?」
「いや、あいつは素直でいい奴だよ」
「じゃあどうして」
「ホクロさ」
「ホクロ?」
「ああ。下唇の左隅に小さなホクロがあるんだよ」
「ええ。それがどうかしたの?」
「下唇のやつ、そのこと最近、やけに気にしてるんだ。『僕のこのホクロのせいで顔社会を台無しにしてる』って言ってきかないんだ」
「そんな」
「ああ。でも今のアイツには何を言ってもダメなんだ。右マユと同じだろ」
「うん・・」

言うのが遅れたが、アタシはブスである。


そんなアタシの顔の中で、こんな繊細な会話が繰り広げられていることに
アタシ自身、少し不思議な感情を抱いていた。

マユゲの微妙な上がり下がり、下唇の小さなホクロどうこうで変わるものではない。

彼らはアタシがブスであることを知らない。

それでも、彼らは一人一人、必死に生きている。
自分だけのことし考えられない者もいれば、顔全体に気を配る者もいる。


不思議な気持ちだ。

彼らが懸命に言い争う姿が、たまらなく愛らしく感じられる今日この頃である。

投稿者 hospital : 2004年07月04日 16:46