2004年07月30日
優しい教え
それでは授業を始めます。優しくしてください。
生徒:「先生。優しいってなんですか」
先生もわかりません。それぞれ考えてください。
それでは授業に入ります。
教科書の33ページを優しく開いてください。
パラパラ
えーと。あなた。うん。そう。後ろから二番目の野蛮な髪質をしている女の子、
ううん、あなたじゃない。
そう。あなた。
アナタの隣の子、教科書に隠れてお弁当食べてない?
生徒:「食べてます」
そう。。
生徒:「先生。そんなに悲しまなくてもいいと思います」
そうかしら。先生。とても悲しいわ。
生徒:「彼はお腹がすいていて、だからまだ2時間目だというのにお弁当を食べてる訳で」
そうね。それは悲しいことではないの?
生徒:「ちっとも悲しくありません。彼は今すごくおいしそうに食べているし、すごく幸せそうです」
そうね。でも、先生が気になるのは
彼の教科書のスミに見えるエビフライの食べ残しの尻尾なの。
悲しいわ。もう夏だし。
エビフライを見た後、少し暗い気持ちでただっ広い運動場を眺めると
涙が出るの。
生徒:「先生。そんなこと気にしないでください」
うん。わかった。じゃあ授業を続けるわね。
えっと。どこまでやったかな。
じゃあ、後ろから3番目の席に座っている目つきになんの輝きもない・・えーと
ううん。違う。あなたじゃなくて。そう。あなた。
33ページの下から3番目の文を読んで訳して。
生徒:「Nancy knew me. So I was Nansy too. ナンシーは私を知っていました。だから私もナンシーでした」
うん。ありがとう。とてもいい訳だと思う。
この文の意味わかる人いる?
生徒:「先生。アタシ、英語は苦手だし、バカだからよくわからないけど、今の文を聞いて、今朝、母さんが早起きして卵焼きを一生懸命焼いていて、それなのに焦がしちゃって、父さんがまったく箸をつけなくて、母さんが悲しそうな顔をしていたことを思い出しました」
うん。遠くの方で結びつく話かもしれないし、
まったく関係のない話かもしれないって先生思うな。
ありがと。
生活感あふれる話をしてくれて。
じゃあ。次の文章を訳して今日の授業を終えようと思います。
I knew big day coming.
誰に訳してもらおうかな。
それじゃあ、帰国子女って言い張っている群馬からの転校生のあなた。
訳してくれるかな。
生徒:「はい。えーと『私は大きな日がやってくるのを知っていました』」
うん。直訳するとそうなるかな。
でもちょっと違うの。
もう少し優しい気持ちで読んでみて。
そうしたら、この文章に裏にあるドラマが見えてくるはずなの。
例えば、悪い男に騙されて散々な目に会わされた挙句、
やっと解放されたと思ったら妊娠していることに気付いた女性が
上野の不忍の池の前に一人で立って
池の向こうに高層のビルがたくさん見えて、
あたしなんで教師になったんだろうなんて思いながら、退職届をにぎりしめながら
明日の最後の授業で生徒達になにを話そうなんて考えている女性の姿が
目に浮かぶはずなの。
言うの遅くなったけど先生、今日で学校辞めます。
生徒:「先生。やめないで」
ごめんなさい。
でも、校長先生に「こうなった以上やめてもらうほかない」って言われたの。
生徒:「先生。なにをしたの?」
何したんだろう。自分でも良くわからない。
断片的に思い出すことはできるけど、あなた達にとても話せるようなことじゃないの。
ありがとね。心配してくれて。
今日は優しくしてくれて先生とっても嬉しかった。
みんなが元気で素直で頭の悪くない大人になってくれることを先生心から祈ってます。
これで授業を終わります。
投稿者 hospital : 2004年07月30日 16:47
