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2004年08月20日

8人の女たち(佐々木)

ああ、幸せのとんぼが ほら 舌を出して 笑ってら

ああ、幸せのとんぼが ほら 舌を出して 笑ってら


佐々木です。

女子バレー日本代表の佐々木です。

みんな、レオとかレオ様とか呼ぶけどね。


まあね。しょうがないよ。

俺達は予選リーグで、韓国に負けた。

韓国もさ。

死んでも日本に勝つ。

ってそんな感じでさ。

嫌いじゃないけどさ。そういうの。


今日は韓国のが強かった。そういうことだね。


俺がまだ女だった頃、そうだな、3年くらい前かな。


新宿だったかな、一人で歩いててさ。

キレイな洋服が売っててさ。

ウインドウ越しにきれいな服が飾ってあったんだよ。

「ああ、ちくしょう。きれいだな」

なんてな。

俺、そん時も日本代表だったし、オシャレなんか全然できなくてさ。

そんなこと考える時間もなかったしさ。

ポカリばっか飲んでさ。

汗ばっかかいてさ。

化粧なんて1年に1回するかどうか、その程度だったよ。

だけどさ。


まだ、女だったんだよ。あの頃の俺は。


あの頃。そうだな。もうあんまり覚えてないんだけどさ。


俺、一人の男と付き合ってたんだよ。

そいつ、大学の時の先輩でさ。

社会人になってからもずっと。


体育大学でさ。そいつもバレーやってたんだよ。

そんな目立たない選手でさ。

オレもね。まあ今、こうして日本代表やってるくらいだし、下手じゃなかったよ。バレー。

だけど、スターになれるとは思ってなかったし、望んでもいなかったね。

地味どうし惹かれあったんだろうな。

気がついたら付き合ってた。そんな感じだったな。



いいよね。メグ。


俺さ。メグ好きだよ。


吉原とよく話すんだよ。


いいなぁ。メグいいなぁ。ってさ。


吉原、俺がそう言うとすげえ楽しそうに笑うんだよ。


レヲやばい!アブナイよ!


とか言ってさ。


あいつ興奮すると俺のこと


レフォ


って呼ぶんだよ。レフォってなんだよなぁ。


まあ、俺も嫌いじゃないんだけどさ。


話、ズレたな。


でさ。俺、大学の時から付き合ってたその男に夢中だったんだよ。

地味な奴なんだけど

何てことない日に突然、派手なプレゼントくれたりしてさ。


俺、バレーばっかやってただろ。


そういうのに弱くてさ。


大事にされてんだ。


って信じてたね。



でもよ。あいつ。浮気してたんだよ。


いや、いいんだ。それは別に。

俺、あんまり気にしなかったよ。

俺なんかと付き合ってるだけじゃ物足りないだろうなって思ってたからね。

あいつに別の女がいるってわかった時も、そりゃつらかったけど耐えたよ。

当然じゃん。なんて自分に言い聞かせてさ。


でも、あいつは違ったんだよ。

すごくオロオロしてさ。

ごめん。

って何度も言うんだよ。

ほんとにごめん。ごめんな。ってさ。


バッキャロウって思ったね。

馬鹿にすんなってね。

同情なんてされたくないね。

同情で大切になんてされたくないね。ってさ。


それで、終わったんだよ。俺達の関係は。

もう3年も前の話だからね。

覚えてないよ。


ただ、それからだね。

俺が自分のこと、『アタシ』じゃなくて『俺』って呼ぶようになったのは。


別に女を捨てたとかそんな派手なもんじゃないよ。


ただその頃、俺はバレーやんないで釣りばっかしてたね。


さみしい港選んで、車走らせてさ。

さみしい背中こっちに向けて釣り糸下げてるオジさんとか見ると、他人に思えなくてね。

色んな所行ったよ。

でも、日本海はあんまり好きになれなかったね。

激しくてさ。波が激しくてさ。


波が激しくて、岩に当たって、細かい白い泡をいっぱい浮かべてさ、その上にまた激しい波がドサァってさ。


そんな日本海見るの、なんかつらかったんだよね。



しばらくして、俺、もう1回バレーがんばってみようかなって思ったんだよ。


何も捨てる必要なんてない。ってさ。

そこまで考えることないってさ。


釣り糸下げてる間に、おぼろげに思ったんだよね。


だから、俺、それからは必死にバレーやったね。

自分ではマイペースでやってたつもりだけどさ。


最近、吉原と飲んでるとさ。

あいつ懐かしそうに言うんだよね。


「あの頃のレヲはやばかった」ってさ。


「どうヤバイんだよ」とか言って、俺も笑って返すんだけどさ。


そうだったかもしれないなって、正直思うね。



韓国に負けたのはやっぱりくやしいよ。


さっき、ロッカールームでさ。

吉原の方見たんだよ。

あいつどんな顔してるかなって。


あいつ、チームの誰よりもこのオリンピックのこと真剣に考えてるからさ。

あいつも落ち込んでるだろうなぁってさ。

また下向いて、難しい顔してんだろうなぁって。


そしたらあいつ。

他のメンバーの顔見てんだよ。


心配そうな顔でさ。


気のきいた言葉かけてやろうとしてんだなってわかったよ。


それ見てたら、なんだかな。

なんだかわからないけど、オレが今でもバレーやってる理由がわかった気がしたよ。



そんな気分で部屋に戻ったらさ。


携帯に、不在着信であいつの電話番号が残ってたんだよ。


3年前に別れたあいつの番号が。


オレさ。

アイツの電話番号なんて、とっくの昔にメモリから削除したんだけどね。


だけど、覚えちゃってんだな。番号を。


情けないんだけどさ。


その番号見たら、すぐにアイツだってわかったよ。



伝言1件。



伝言かよ。って思ったね。


冗談じゃないよ。ガラじゃないよ。伝言なんてさ。


頼むから直接言ってくれよ。


そしたら何言われたって笑って流せるからよ。


頼むから伝言なんてやめてくれよ。



オレさ。自分で笑っちゃったよ。

伝言きけなくてさ。ボタンの上に指置いてんのに、押せないんだよ。


震えててさ。オレの親指。


まいったね。


バッキャロウってさ。オレ、携帯をベッドに投げ出して、馬鹿みたいに酒飲んだよ。


それで、オレ、吉原の部屋に電話かけたんだよ。隣なんだけどさ。


「オレの部屋で飲もう」って。


アイツさ、すぐ酒持ってきたよ。


右手にウイスキーのボトルもって、左手に鉄アレー持ってさ。


なんか嬉しかったね。



たまにわかるんだよ。


なんでオレ達、そろいもそろって一つの、こんな小さいボール追っかけてるのかってさ。


たまに気付くんだよ。


ああ結構楽しいじゃんってさ。



吉原が部屋に帰ったあと、シーンとした部屋でさ。


携帯取り出して、伝言聞いたよ。


酔っ払った勢いでさ。


そしたら、伝言は一言。



「お前、かっこよかったな」



バッキャロウってな。


それだけかよ。ってなもんだよ。


そんだけだよ。ってあいつ言いそうだよ。


やけに真剣な目でさ。


オレ、たじろいじゃうんだよな。そうやってアイツに見つめられると。



オレ泣いてたよ。


嬉しかったんだよ。


何度も伝言聞き直してさ。


まだ泣けるんじゃん。って自分で驚いてさ。






なんてな。


ガラじゃないよ。こんな話。


あれだな。



大山とか落ち込んでそうだな。木村とかさ。


「佐々木さん!アタシが悪いんです!」


とか言ってな。


世話が焼けるよ。

まったく。



次のケニア戦は絶対勝つよ。


絶対にさ。



だから


応援よろしくな。

投稿者 hospital : 2004年08月20日 23:18