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2004年09月20日

自転車で行こう

自転車に乗って行こう。
俺を止められるものなんてもう何もない。
彼女と彼女のお母さんとお父さんと、それから飼い犬のメリージェーンを除いてね。
もう迷わないことにしたんだ。
ペダルをこぎだしたら目的地に辿り付くまでこぎ続けるんだ。
がむしゃらにこぐ訳じゃないよ。
ゆっくりゆっくり、でも、止まらずにこぎ続けるんだ。

俺は御茶ノ水駅の自動改札を自転車で通りぬけた。
ブザーが鳴って、両サイドから約20cm四方の板がバタンと出てきたけど、そのまま直進したんだ。
改札を抜けるとすぐに、6段くらい下る階段があって
そこを一気に駆け下りた。
マウンテンバイクじゃないよ。
ママチャリさ。
サビなんて少しもついてないピッカピカのママチャリなんだ。
すぐに左折した。
そこにはホームへ下る30段くらいの階段があるんだ。
そこも一気に駆け下りた。
ガタガタ車輪が揺れて、サドルも揺れて音を立てたから、たくさんの人が俺を見た。
けど、俺は不安を顔には出さなかったよ。
ホームは、会社帰りの人や、学校帰りの人でいっぱいだった。
新宿行きの中央線快速がホームについて、その人達と一緒にすぐに乗り込んだ。
駅員が俺を追ってきていたからね。
彼らは結局、電車の中でも自転車をこぎつづける俺をホームから見送ったんだ。
電車は四ツ谷に向かって出発した。

電車の中でもこぎ続けたら四ツ谷につく前に一番前の車両に辿り付いちまうんじゃないか?
そしたらUターンしなくちゃならない。
って少し心配してたんだ。
Uターンはあまりしたくなかったからね。
でも、そんなケチな考えは捨てることにした。
この小さなペダルを気持ちいい速度でこぎつづけようって決めたんだ。
電車の中では、みんな迷惑そうな顔してたよ。
中には笑ってる人もいた。
だけど、どの人も幸せそうに見えたんだ。

四ツ谷に電車が到着すると、迷わずホームへ下りたよ。
そこから丸の内線への乗り換えの昇り階段を一気にかけ昇った。
30段以上ある急な階段だよ。
地下鉄に乗るのになんで階段昇らなきゃいけないんだなんて思わなかったよ。
だって、俺はその時、階段を昇るのに必死でそれどころじゃなかったからね。
自転車の場合、下りの階段は楽だけど、昇りの階段はきついんだ。
だけど、止まるつもりなんてなかったよ。
一気に階段を昇り切って、丸の内線の自動改札を抜けて、ホームの一番端まで走ったんだ。
ホームの屋根がない所まで行くと、景色がすごくきれいでさ。
テニスコートが見えてその向こうに木がたくさん生えてて
そのまた向こうに、白いビルがいくつも立ってるんだ。
でも、すぐにUターンしたよ。
今日の俺には性に合わなかったのさ。
そして、またJRのホームに戻った。
新宿へ行きたかったんだ。
丸の内線で行けって?
そいつはムリな相談だよ。
俺はJRが大好きなんだ。
それに、新宿行きの丸の内線に乗るには更に階段を40段ほど昇らなきゃいけなかったからね。

さっき一生懸命登った階段を一気に駆け下りたよ。
そしたらちょうど新宿行きの中央線がホームに到着したんだ。
電車に乗り込んだ。
外はもう夜だったよ。
でも窓から見えるビルのほとんどの窓が光っていて街は明るいんだ。
そんな景色を見ながら、新宿へ向かう電車の中をゆっくり走った。
満員電車だったから、こぎ続けるのは大変だったよ。
人が押し合って支えあってようやく立っているような、痴漢なんかが喜びそうな満員の状態だったんだ。
それでもペダルをこぎ続けた。
ゆっくりゆっくりじりじり人と人との間にめり込んでいくように自転車を走らせた。
走らせるっていうか、めり込んでいくんだ。
迷惑そうな顔している人もいたし、不思議そうな顔している人もいたし、少しだけど笑ってる人もいたよ。
悪いなって思ったけど、恥ずかしくはならなかった。
だって、逆の立場だったら絶対に笑ってただろうなってその時思ったからね。

新宿についた。
駅にゆっくり停まる電車の窓から高島屋と紀伊国屋が見えた。
7Fの連絡通路が好きなんだ。
まだホームに下りる前から、あそこへ行こうって決めてたんだ。
南口の改札を出ると、新宿の街があった。
夜の新宿南口はきっと世界で一番綺麗でかわいらしい場所だと思う。
ビルがキラキラ光ってて
疲れた顔して歩いている人もいたし、肩寄せ合って幸せそうに歩いてるカップルもいたし
その他にもすべての人がいたんだ。
俺は煙草に火をつけた。
けど、街中で煙草を吸っちゃいけないなんて最近できたケチなマナーを思い出して
すぐに煙草の火を消したんだ。
高島屋2Fの宝石売り場を一気に自転車で駆け抜けたんだ。
宝石売り場のお姉さんが好きなんだ。
なぜって厚化粧だからさ。
ハンズも通り越して紀伊国屋へ向かったよ。
3Fの連絡通路を渡ったんだ。
7Fの連絡通路へ行きたかったはずだって思い出したけど、そんなことはすぐに忘れたよ。
その時はもう4Fの文庫本売り場へ行くことで頭がいっぱいだったからね。
せまいエスカレーターを一気にかけ昇ったよ。
かけ昇ると、英会話や国家試験の学校かなんかの勧誘のお姉さんが立っているんだ。
このお姉さんは大変なんだ。
だって一日中笑顔を振りまいてるのに無視され続けてるんだから。
俺は自転車でお姉さんの前を通り抜けて
レジの中へ乗り込んだんだ。
店員はビックリしてたよ。
ここの店員はすごいんだ。
レジに5人くらい一気に並んでて、みんな感じのいい人たちなんだ。
たまに男の店員がいて、決まってそいつは桃太郎みたいにほっぺが赤いんだ。

今度はエレベーターに乗った。
そして、3Fまで下りて、そこからまた外へ出たんだ。
全速力でペダルを漕いだよ。
すごく気持ち良かった。
しばらく行くと、線路を超えていく太い橋があるんだ。
橋の向こうには超高層のビル群が夜空をバックにしてキラキラ光ってるんだ。
人と自転車しか通れない橋でこんなに太くて綺麗な橋は日本中でここだけだと思う。
スターバックスを抜けて行くんだ。
ここのスターバックスは最高なんだ。
なぜっていつもOLでいっぱいだからさ。
OLに見惚れてるうちに、また南口の改札に着いた。
けど駅には入らなかったよ。
もう気持ちは決まってたからね。
左へ曲がって一気にゆるやかな坂を駆け下りた。
ここの景色は日本一なんだ。
それこそ、ロストイントランスレーションで使われるべき場所だったんだ。
300mほど一気に走り抜けたよ。
スリランカ料理屋の前を通りすぎた。
その店はスリランカ人が経営してて、あんまり長居してるとジロジロ眺められるんだ。
だけど、スリランカ人は嫌いじゃないよ。
なぜって、白いYシャツが世界で一番似合うからさ。

そこまで来て、ゆっくりペダルをこぐことにした。
目的地はもうすぐそこだったからね。
右手にAMPMが見えたら左折。
それだけはよく覚えてたんだ。
曲がったらすぐにスターバックスがあるって。
そのビルの5Fだって。
小さなビルが好きなんだ。
小さなビルの狭い非常階段が大好きなんだ。
一気に階段をかけ昇った。
5Fについたら小さなドアがあったよ。
その向こうに、今から俺に殺される男がいるんだ。
その男は気の良さそうな顔をしてた。
とても俺の彼女を殺しちまった悪い男には見えなかったけど
そんなことはもう気にならなかったよ。
もう決めてたんだ。
俺は自転車から降りた。
そんで、ポケットから拳銃を取り出して、そいつに向けたんだ。
そいつは「殺さないでくれ」ってケチな映画の冴えない悪役みたいに言ったんだ。
だから俺は、クリントイーストウッドみたいに目を細めて、涼しげな顔して言ってやった。
「そいつはムリな相談だね」
そんで引き金を引いた。
よくわからないけど、そいつと一緒に俺も倒れてたよ。
天井が見えたよ。
天井と、その手前にぼやけた男の顔がいくつか見えたんだ。
なにやら俺に向かって怒鳴ってたみたいだけどなんにも聞こえなかったよ。

大人しく眠ることにしたよ。
大人しく眠るといいことが2つあるんだ。
一つは次の日、気持ちよく起きられるってこと。
もう一つは、良い夢が見られるってことさ。

そしたらその時は
自転車に乗って行けるからね。
自転車に乗って

どこまでも行けるからね。

投稿者 hospital : 2004年09月20日 17:17